帝王とその仲間たち

 

 

優しい光が窓から降り注ぐ、長閑な昼下がりだった。

寮の自室で寛いでいた親友たちに聞こえる声で、ジェームズ・ポッターが言った。

 

「人狼の牙が一番怖ろしい‥」

 

人狼、という単語に、親友たちは素早く反応を示して、ジェームズを見た。

ジェームズは、古めかしい本を片手に、窓辺に座って、ぶつぶつとまだ何か呟いていた。

 

「‥おい、ジェームズ、いきなり何を言い出すんだよ!」

少し怒気を含んだ声で、シリウスがジェームズを睨む。

シリウスの傍らでは、リーマスが青い顔をしていた。

自らが人狼であるリーマスが、突然、親友に怖ろしいと言われた事に、激しく動揺しているのは明らかだった。

 

「‥怒るなよシリウス、今、人狼の感染源と感染経路を調べてるんだ‥」

自分の発言に、罪悪感は無いらしいジェームズは、煩わしげにシリウスを跳ね除けた。

「‥ジェームズ、お前っ‥!」

「‥シリウス、やめて‥」

ジェームズに掴み掛かろうと、立ち上がったシリウスに、リーマスが抑止の声を上げた。

シリウスの制服を掴んで、元の場所、ベッドの上へと座らせた。

 

シリウスとリーマスは好き合っていた。

お互いに、自覚はしていたものの、

リーマスは自分が人狼だと言う事で、

シリウスは親友を邪な目で見ていたと言う事で、

つい最近まで、告白すらできないでいた二人だったが、それを乗り越えて、晴れて恋人同士になったばかりだった。

 

「‥僕は平気、本当の事だし‥」

シリウスが、座ったのを確認してから小さな声でリーマスが呟いた。

「‥リーマス」

そんなリーマスを、シリウスは慈しむ様に抱き寄せた。

‥完全に、二人の世界だった。

恋人同士がよく使用する、世間謝絶の魔法だった。

ちなみに、これはマグルでも使える。

 

「ふ〜ん、やっぱり人狼は粘膜感染なんだ‥キスでも感染するのかな?‥」

再び部屋に響いたジェームズの大きすぎる独り言に、

二人の世界に浸りきっていたシリウスとリーマスが、硬直した。

‥粘膜感染?

‥キスでも感染?

‥と、言うことは‥。

 

シリウスのこめかみを冷や汗が伝った。

リーマスの顔も、先程よりも一層青白くなっている。

「‥シリウス、月を見ておかしな気分になったりしてない‥よね?」

「‥ま、まさか‥ジェームズの考え違いだろ‥」

二人の声は、震えている。

 

二人の関係は、清らかな交際‥とは言い難い所まで進んでいた。

若い二人が、毎日恋人と寝起きを共にしていて、何も無い訳にはいかなかったのである。

当然、キスも、セックスも、経験済みだった。

ジェームズが言った事が事実ならば、

シリウスも晴れて仲良く人狼の仲間入り‥という事になる。

 

「‥ねえ、リーマス?」

二人仲良く狼狽している恋人たちの雰囲気を、全く無視して、

穏やかにジェームズがリーマスに声をかけた。

「な‥何?」

突然、声を掛けられて、上擦った声でリーマスが答える

 

「リーマスが噛まれたのは‥やっぱり、首かい?」

ジェームズが、自分の首を指差して聞いた。

「‥うん。‥あちこち噛まれたけど、一番深い傷は首だったかな‥」

よく覚えてないけど‥。

と、付け加えてリーマスが答えると、ジェームズは「そうか」と頷いた。

 

「じゃあ、急所を噛まれると感染するんだ‥」

ジェームズは、納得した様にそう呟いて、再び自分の思考の中に舞い戻ってしまった。

古書を手に、ぶつぶつと一人呟いているジェームズの隣で、

シリウスとリーマスが安堵の溜息を吐いていた。

 

 

夜。

誰も居ない空き教室に、シリウスとリーマスが忍んでやって来ていた。

二人が、消灯後ここへ通ってくるのも、すっかり日課になっている。

もちろん目的は、自分たちの寝室ではままならない、恋人との逢瀬の為である。

「ったく、ジェームズの奴‥余計な事言うよな‥」

シリウスが、定位置になっている窓際の床へ座りながら、吐き捨てる様に悪態をついた。

「ジェームズなりに、僕の事を考えてくれてるんだよ‥」

シリウスの隣に腰下ろしながら、リーマスが宥める様に言った。

 

「‥それに、俺は人狼になったってリーマスと‥」

尚も何か言おうとしたシリウスの唇を、リーマスの唇が塞いだ。

優しく触れあう、恋人たちの口付け。

「‥それ以上言ったら、‥襲っちゃうよ?」

艶やかな微笑と共に、リーマスが悩まし気な言葉を紡ぐ。

「すごい誘い文句だな‥リーマス、君はよく似た偽者か?」

シリウスも微笑して、そんな事を言った。

 

二人とも、既に半裸の状態だった。

静かな部屋に、二人の熱い息遣いだけが響く。

シリウスの唇が、リーマスの白い肌の上を滑る様に這う。

執拗に、愛し気に、シリウスの舌が肌を舐め上げ、時折歯を立てる。

その度に、リーマスの掠れた嬌声が上がった。

「首筋を噛まなければ良いんだよな?」

シリウスの言葉に、リーマスが頷く。

「‥じゃあ、さ‥」

意味あり気なシリウスの言葉に、リーマスの頬が朱に染まる。

 

「‥変態‥」

リーマスは小さな声でそう言って、

それでも素直に、ゆっくりとした動作で、シリウスのそそり立った欲望に口付ける。

舌を使い、舐め上げ、熱い口内で包み込んだ。

その光景を上から見下ろし、シリウスはイヤラシイ笑みを浮かべる。

 

ぎこちない動作で、それでも一生懸命に自分に奉仕する恋人に、シリウスの欲情が煽られる。

シリウスは、無防備に晒されたリーマスの蕾に、手を伸ばした。

そこは、既に快楽を求めてひくついていた。

「‥んっ‥っふ‥」

シリウスの指が触れた途端、リーマスの身体が呻き声と共にビクンと跳ねた。

「‥俺の咥えて興奮した?‥」

意地悪く言うシリウスを、リーマスが睨みつけた。

更に、口に咥えたシリウスの欲望を、きつく吸い上げてやる。

 

「‥んっ‥おい、‥手加減しろよ、‥痛いって‥」

突然の強烈すぎる刺激に、苦笑してシリウスが呻く。

「‥良くしてやるからさ‥」

抗議の後に、黒髪の美形はとんでもない台詞を付け加えた。

そして、自分の唾液で濡らした指を、リーマスの中へと挿入した。

「ひゃ‥あっ、‥シリウス‥やあっ‥」

ゆっくりと中に入ってくる指の感触に、リーマスの身体が過剰な程に反応を示す。

揺れる身体と嬌声に、リーマスの口から、咥えていたモノが離れてしまった。

 

「‥リーマス、一緒に‥気持ち良くなろう?‥」

そんなシリウスの台詞に、熱を持った身体が抗える筈がない。

再びシリウスの欲望を口に咥えて、リーマスは愛撫を再開した。

それを確認して、シリウスはリーマスの中で指を動かし始める。

静かな部屋の中に、淫猥な水音が響いた。

 

与え続けられる快楽に、二人の限界が近付いていた。

呼吸は荒くなり、身体を熱が支配していく。

シリウスは三本に増やした指で中を刺激する一方で、

空いた方の手を使ってリーマスのモノへと手を伸ばした。

その刹那、

あまりの快感に、思わずリーマスは口の中のシリウスの欲望に歯を立ててしまった。

それも、かなり強く。

 

「人狼の牙が一番怖ろしい‥」

「じゃあ、やっぱり急所を噛まれると感染するんだ‥」

 

昼間に聞いた、ジェームズの言葉が聞こえた気がした。

 

「‥!?痛って〜っ!!!!」

濃密な甘い空気が充満していた部屋に、シリウスの悲鳴が木霊した。

「‥ごっごめっ!!‥だ、大丈夫!?」

慌てて、リーマスが治療の為に杖を取り出そうとしたが、

暗闇の中、行為の最中、しかも半裸の状態で、脱ぎ散らかした服から杖を探し出すのは容易ではなかった。

暗闇の中でリーマスが、やっと杖を見つけ出して、治療の魔法で傷を塞いで止血を施すまでに、かなりの時間がかかってしまった。

 

その後二人は服を着て、空き教室の窓辺の床に向かい合って座った。

「‥‥ごめん‥‥」

項垂れ、涙を一杯瞳に溜めてリーマスはシリウスに何度も謝った。

「リーマスのせいじゃない、‥その、俺も調子に乗りすぎたし‥

それに、まだ感染したと決まった訳じゃないし‥」

シリウスは、優しくそう言って、励ます様にリーマスを抱き締めた。

「‥でも‥僕のせいで、シリウスまで‥」

シリウスの腕の中でそう言ったリーマスの声は、泣き声だった。

 

リーマスが泣き疲れて眠った頃には、空が白み始めていた。

 

 

「‥で?‥何がどうしたって?」

ジェームズが目を覚ますと、泣き腫らしたような赤い目をした、親友ムーニーが縋り付いてきた。

寝起きの頭で、「大変」「助けて」「シリウスが」と言う言葉だけ、辛うじて聞き取れた。

取り敢えずそれを宥めて、着替えを済ませてから再び事情を聞いた。

「だから、‥大変なんだ、シリウスが人狼になっちゃう‥僕のせいで‥ジェームズ!助けて!!」

まともに聞いても、さっぱり事情が飲み込めなかった。

「え〜と、‥つまり、リーマスは‥シリウスの首に噛み付いちゃった?‥」

ジェームズは、親友の言葉をはしょって理解し、そう聞いた。

「‥場所が‥違うんだけど‥そう」

リーマスが、そう言って頷いた。

 

「ふ〜ん。‥で?シリウスは?」

部屋を見回したが、シリウスの姿は見当たらなかった。

「‥談話室で、寝てる」

ジェームズは取り敢えず、シリウスの所へ行こう、とリーマスを促して、部屋を後にした。

 

「‥起きろ!!」

談話室のソファーで、気持ち良さそうに眠っていたシリウスを、ジェームズはそう言って蹴り落した。

「‥っ痛て〜っ!!何すんだジェームズ!」

蹴られた背中と、床に打ち付けた頭を擦りながら、シリウスが喚く。

「五月蝿い!この馬鹿犬!!‥リーマスを泣かせた一部始終を聞かせてもらいたいんだけど?」

何故かお気に入りらしいリーマス以外には、ジェームズはいつも容赦がなかった。

「‥リーマス、お前‥ジェームズに喋ったのか?」

手荒い仕打ちはいつもの事なので、ジェームズの事は無視して、シリウスはリーマスに問う。

それに、リーマスは頷いた。

 

「‥で、どういう事だ?‥吐けよ‥コラ!」

無視されたのが悔しいのか、シリウスに纏わり着いてジェームズは言った。

「‥どういうって‥」

至近に迫ったジェームズを見返して、シリウスは口籠った。

「‥だから、その‥噛まれたんだよ‥リーマスに‥」

暫く無言でジェームズを見詰めた後、シリウスは話し出した。

「それは知ってる。何処を、噛まれたんだい?」

 

「‥急所?」

「疑問形は認めません」

「‥急所」

「それだけじゃわかりません」

二人の会話は、コントみたいだった。

 

「だから、噛まれたの、‥此処を」

シリウスが、観念した様に自分の股間を指差した。

沈黙。

そして、爆笑。

 

「ぶわっはっはっはははははっ!!!!」

ジェームズは床を転げまわって笑った。

盛んに、「リーマス最高!」と繰り返しながら、のた打ち回って笑った。

談話室に居た他のグリフィンドール生は、遠巻きにそれを奇異な目で見ていた。

 

「ジェームズ、笑いすぎ‥」

ジェームズの暴走を止めたのは、リーマスだった。

言葉を掛けながら、ジェームズに手を差し出して、床から起こした。

「だって、‥あんな所‥確かに急所だけど‥」

目に涙を溜め、肩を揺らして大きく呼吸を繰り返しながら、ジェームズは、

リーマスの手を取って、

「君、最高!!」

と、念を押した。

 

「‥わかったから。‥シリウスは大丈夫なんだね?」

呆れた様にそう言って、リーマスはジェームズに聞いた。

ジェームズがこういう態度を取った時、大事になった試しがない。

「もちろんだよ☆」

それに、ジェームズはウインク付で答える。

「良かった。‥シリウス?」

リーマスが安堵の溜息を吐きながら、傍らのシリウスに視線を向けると、何故だか呆けた表情をしていた。

 

「‥どういう事なんだ?」

「どういう事も何も、君は人狼でもなんでもない、ただの馬鹿犬だって事だよ、パッドフット」

シリウスの問いに、満面の笑みでジェームズが答える。

「馬鹿だけ余計だ‥」

憎たらしい笑顔を向けるジェームズに、憮然とした表情でシリウスが言った。

「ま、取り敢えず‥」

ジェームズはそう言いながら、シリウスに近寄って、耳打ちした。

 

「不能にならないように、祈っておいてやるよ」

と。

もちろん、満面の笑みだった。

 

昨日から、一番近くの外野席でこの馬鹿騒ぎの一部始終を観戦していたピーター・ペティグリューは思った。

部屋を変えて欲しい‥と。

 

 

 

 

 

オワリ

 

追伸 人狼は、狼の姿の時に感染します。   BYジェームズ・ポッター

 

 

初めてのシリル(もどき?)です。

初めての裏です。

いろいろ訳分からんです。

ごめんなさい‥(逃)

2004・01・30ミヅキチヨ

 

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