辻待ちの強姦者(パッセンジャー)

 

カツンカツンと、昼下がりの誰も居ない廊下に控えめな足音が響く。

温室からの帰り道、空き教室の多いこの廊下を通るのが、ネビル・ロングボトムは好きだった。

土曜の午前の授業を終え昼食をとり、大広間から直接温室まで足を運び、自分で育てている薬草に水や肥料をやって、その帰り道にここを通る。

暗い所は大の苦手なネビルだが、明るく静かな場所は嫌いじゃない。

週に一度、この短い散歩コースを一人で歩く事が、ネビルにささやかな安らぎを与えてくれる。

そして、ネビルが好んでこの廊下を通るのには、もう一つの理由があった。

温室から、渡り廊下を通って人気の無い明るい廊下へ、暫く真っ直ぐ進むと、廊下が交差する場所に出る。真っ直ぐ進めば、玄関ホールへ。右に曲がれば、図書室への近道となる階段へ。左に曲がると、地下へと向かうゆるい坂道。

ネビルは迷わず左へ曲がる。

交差した場所から数歩も歩かぬうちに、ネビルの左側の壁にある教室の扉が開いて教室の暗闇から伸びてきた腕に、ネビルは中に引き込まれてしまった。

 

「遅かったな‥‥ロングボトム‥」

明るい廊下から、突然カーテンを閉め切った暗闇の教室に引き込まれて、視界が閉ざされたネビルの耳に声が聞こえる。

「僕を待たせるなんて、躾が足りないみたいだな?」

そう言って、意地悪く笑う声の主。特徴のある、見下した口調。見えなくても、顔に張り付いた意地の悪い笑みが容易に想像できてしまう。

ガタンと大きな音がした。

ネビルの身体が、乱暴に机の上に押し倒された音だった。

「‥うぁっ‥」

ネビルの口から、苦痛の呻き声が上がる。

それでも、容赦なくネビルの身体は硬い机の上に強く押し付けられたまま、上から押さえ付ける力は緩まない。

「どうして君は‥いつも僕を苛立たせるんだ?‥主人に逆らうしもべなど聞いた事が無い‥」

意地の悪い声が、ネビルの耳元で聞こえる。その声にネビルは場違いに、ゾクリと背筋を這い上がる快感を感じた。

それは別に、ネビルの中に、痛めつけられて悦ぶ様なおかしな性癖がある、という事ではない。ネビルに恥辱を与えている人物のせいだ。

ネビルは彼を愛している。昔も、今も、変わらずに。

 

 

 

三ヶ月ほど前事、ネビルの相思相愛の恋人ドラコ・マルフォイを、不幸が襲った。

スネイプの研究室へと、ドラコが呼ばれ、その際に、ビーブスがドラコに悪意のある悪戯を敢行した。突然の出来事に、居合わせたスネイプもドラコを守れなかった。

ビーブスによって倒された薬品棚。寸での所で下敷きを免れたドラコに、降り注いだ薬品。それは、『忘却薬』。床に倒れた勢いと、薬を浴びたショックで、ドラコは気を失った。

知らせを聞いたネビルは、体裁を無視して保健室へ、ドラコの元へと駆けつけた。涙の溜まった瞳でドラコの手を握り締め、不審と煩わしさの込められたスネイプの視線を、睨み返して黙らせた。

ネビルは祈った。彼が無事であるように。一刻でも早く目を覚まして欲しい、‥と。

ドラコが被った薬品の名を、ネビルは知らなかった。

程なくして目を覚ましたドラコが一番最初に見たのは、泣き顔で、心配そうに自分を見詰めるネビルの顔。

「‥‥ロングボトム?‥どうして君が、此処に居るんだ?」

それが、ドラコの第一声だった。

 

 

『忘却薬‥‥不慮の事故や、間違いで服用してしまった場合、忘れられない大切な記憶を無くす』

分厚い魔法薬の辞書を手に、図書室の隅の椅子に腰掛けて、ネビルは何時間も同じページを開いたままで居た。

ドラコが忘れたくなかった事。それは、ネビルとの幸せな日々の記憶。

 

「‥‥ロングボトム?‥どうして君が、此処に居るんだ?」

 

数日前、目を覚ましたドラコがネビルに言った言葉。

気持ちを通わせ合ってから、もう何年も聞いた事の無い、自分に向けられるドラコの見下した声。ファーストネームを呼ばない、怪訝そうなドラコの表情。

嫌われたとか、捨てられたとか、そんな言葉も成立しない、完全な存在否定。

何年もかけて築いてきたネビルの居場所は、あっと言う間に無くなってしまった。

それからの一週間、放心状態でネビルは過ごした。寝込んだりはしなかったが、明らかに正常な状態ではない。

そんなネビルを気遣って、ハリーやロンが何度も元気付けたり、慰めの言葉をかけたりしたが、ネビルの耳を素通りするばかりで、心に届く事は無かった。

悲しみも涙も、不思議と湧いては来なかった。ただ、無性に一人寝が寂しかった。

どんなに布団を被っていても、身体が寒い。暖めてくれる筈の、優しい腕が無い事が寂しくて、失ってしまった温もりをネビルは切望した。

 

ドラコがネビルを忘れてしまった事故から、十日後。

深夜のグリフィンドール塔。誰も居ない談話室に、ネビルは一人在所無げに座っていた。何をするでもなく、ただぼんやりと宙を見詰めて座っていた。

何時の間にか、上級生の男子生徒が一人、ネビルの正面に立って居た。

「消灯時間だ‥‥ロングボトム、もう寝ろよ」

声を掛けられて、ネビルはゆっくりと顔を上げて微笑んだ。

その妖艶な笑みに、声を掛けた上級生は顔を赤らめる。・・・彼は、随分前から、ネビルに下心を抱いていた。

ドラコと付き合い始めてから、以前にも増してネビルの匂い立つような色香が増した。ある種の人間は、それを敏感に感じ取っている。故に、ネビルに言い寄ってくる輩は少なくない。

ネビルはそれを利用した。寂しさと、身体の寒さを紛らわす為に。

「‥‥寒くて‥眠れないんです‥」

そう言ったネビルを、彼は抱き締める。

ネビルは抵抗しなかった。ただ笑みを称えて、彼の好きなようにさせていた。

「先輩‥‥暖めて‥‥」

誘われるまま、ネビルに圧し掛かる男。そこに居るのは、欲望に狂った獣だけ。理性も、常識も、体裁も、何も無い。欲望に穢れた想いだけ。

ネビルは毎晩のように、言い寄ってくる男と身体を重ねた。時に相手は遊びだったり、本気だったりしたが、ネビルにはどうでも良かった。

必要なのは、抱き締めてくれる温もりと、快楽に誘ってくれる身体だけだったから。

この時既に、ネビルの心は壊れ始めていた。

 

「ネビル‥‥ちょっと、良い?」

ある日の放課後、深刻な表情をしたハリーに呼び止められて、ネビルは笑顔で頷いた。

ここの所、ネビルの様子は異常なくらいに明るい。まるでネビルの方こそ、ドラコの事などすっかり忘れてしまったかのようだ。

「話って‥何?」

ハリーに連れられて、人気の無い教室に入ったネビルは、無邪気な表情でハリーに聞いた。

「‥‥マルフォイの事なんだけど‥」

少し言い難そうにハリーが喋りだすのを、ネビルはにこにこと笑って見ていた。ドラコの話題になっても、その表情は崩れない。

「ドラコが‥‥どうかした?」

「‥‥‥良いの?このままで‥?」

「良いも何も、仕方ないじゃない?ドラコが忘れちゃったんだから‥‥僕には何もできないもの‥」

そう言って、微笑むネビルに、ハリーは目を見開き、声を荒げた。

「だからって!!‥ネビル!自分が何をしているか、わかっているの!?」

ネビルの肩を掴み、詰め寄ったハリーの顔は、酷く辛そうだった。

少し前から、ネビルは深夜に度々寝室から姿を消すようになった。それに気付かない程、ハリーのネビルに対する友情は薄くない。もっと言うと、明け方に帰ってきたネビルが纏う、日替わりの移り香に気付かぬ程、ハリーは子供でも無い。

ネビルが寝室を抜け出し始めた頃から、噂はあった。不特定多数の人間から、「ネビルの抱き心地が良い」だとか、「誰かに仕込まれた身体」だとか‥、「双子もネビルに手を出した」などと言う噂まで、ハリーの耳には届いていた。

「‥‥別に、ハリーには迷惑掛けていないでしょう?恋愛は僕の自由だよ‥‥違う?」

ハリーの剣幕にも、ネビルは微笑んだままで答えた。その笑顔が逆に痛々しくて、ハリーは更に顔を歪ませる。

「そんなの‥恋愛じゃない‥‥ネビル、本当にもう、マルフォイの事、どうでも良いの?‥仕方ない事なの?‥‥」

くすくすと、ネビルが笑った。ハリーが今まで見たことのない、妖艶な笑み。

「‥‥元々、僕とドラコじゃ釣り合わない‥いつかこうなるって、知っていたし‥‥いい機会じゃない?」

「そんな‥‥ネビル、だって‥あんなに‥‥」

縋るように、ネビルの肩に置かれたハリーの腕に、痛いくらい力が入る。

「好きだよ‥‥僕は、今でもドラコが‥好きだよ。でも‥‥もういいんだ、」

ネビルは、笑顔を崩さないでそう答えた。

 

「良くな‥‥い‥よっ‥ネビル‥‥‥そんなに、笑わないで‥平気なふりを‥しないで‥‥」

泣き崩れたのは、ハリーの方だった。

ドラコを忘れる為に、寂しさを紛らわす為に、他の男に抱かれるネビル。

 

  『本当は、嫌だよ。ドラコ以外の人に抱かれて、嬉しいはずが無いじゃないか』

 

ハリーには、ネビルの心の悲鳴が聞こえる。聞こえているのに、ネビルが笑うから。「仕方ないよ」と、笑うから。ハリーの涙は、どんどん溢れた。

「良いんだ‥‥ハリー、もぅ‥‥僕は‥‥‥」

床に座り込んで泣き出したハリーを、ネビルが抱き締めて、泣き止むまでずっとそうしていた。

肩が震えていたのは、泣いているハリーだけじゃなかった。

 

 

「盗み聞きか?悪趣味だなマルフォイ?」

突然後ろから声をかけられて、ドラコは視線を斜め前方から慌てて離して振り返った。

そこに居たのは、今ドラコが姿を隠して様子を伺っていた人物、ハリーとネビルの友人、ロナルド・ウィーズリーだった。

彼は機嫌の悪さを隠しもせずに、ドラコを睨みつけていた。

ドラコは、自分の後ろめたい行動を見られた挙句に、それを指摘され、居心地の悪さに小さく舌打ちをした。

そして、ロンと同じ様に相手を睨んだ。

「‥ふん、冗談じゃない、質の悪い冗談はよせ、ウィーズリー‥あいつらの話を僕が聞いて、何の得になるっていうんだ?馬鹿馬鹿しい‥」

そして、ドラコは吐き捨てるように言った。

「大体‥‥ロングボトムが僕を好き?身の程知らずも良いとこ‥ろ‥‥‥」

「‥‥言うな」

いつものように、饒舌に嫌味を紡いでいたドラコの襟首を、ロンが掴んでいた。

容赦の無い力で首を締め上げられて、ドラコの気道が空気を取り込まなくなる。

「僕や、ハリーを悪く言うのは、今は許してやるよ‥‥だけど、ネビルに冗談でもそんな事を言ってみろ‥絶対に許さない」

ロンの声は、決して荒々しいものではなかったが、普段よりも少し低い声には、怒りが十分込められていた。

そして、至近でドラコを睨むロンの目は、本気でドラコに敵意を向けている。

ドラコは、出会って初めてロンを、心の底から怖いと思った。

そして唐突に、ロンの手がドラコを離した。

一気に呼吸が楽になり、ドラコは盛大に咽返る。

そんなドラコを一瞥し、ロンはその場を去っていった。

「‥‥クレイジーな奴め、これだから貧乏人は‥」

ようやく呼吸が正常に戻ったドラコは、誰も居ない空間にそう悪態を吐いた。

 

頭の中で、何かがずっと引っかかっている。

どうして自分は、ハリーとネビルの会話を盗み聞きなんてしたんだろう?自分でもわからない。

多分、自分の名前が出てきたからだと、無理やり自分を納得させようとして、ドラコはふと違和感を感じる。

さっき、ネビルは‥‥‥自分を、ファーストネームで呼ばなかっただろうか?しかも、極自然に、それが当然であるかのように、「ドラコ」と。

その声が、何故か耳に心地良くて。

どうしてか、もっと聴いていたかった。話の内容なんて、どうでも良かった。ただ、自分はもう一度呼んでもらいたかった、ネビルに‥たった一言、「ドラコ」と。

(‥ふん、馬鹿馬鹿しい‥この僕が、ロングボトムに名前を呼ばれたくらいで、何を動揺している?‥あれはただ、あんまり馴れ馴れしいから、腹が立ったんだ‥)

ドラコは頭を振って、自分の考えを自分で否定した。

しかしドラコは、気付いていた。

スネイプの部屋に呼ばれて、事故に遭った日から、自分の中の何かが変わってしまった事に、気付いていた。

そして、何故だかネビルの事が気になって仕方が無い自分にも、気付いていた。

あの日、目を覚ました時に、自分の手を握り、泣き顔で、心配そうに顔を覗き込んできたネビルの表情が、どうしてもドラコの脳裏から離れなかった。そして、その情景に、その直後のネビルの顔が重なる。

 

「‥‥ロングボトム?‥どうして君が、此処に居るんだ?」

そう言った僕の顔を見て、目の前で、宝物を壊されたみたいに、酷く悲しそうに顔を歪めて、僕の手を振り解いて‥‥。

「ごめん」

何の為か、理解できない謝罪を残して、僕の視界から消えていった。

 

その情景が、表情が、ドラコの脳裏に焼き付いて離れなかった。

 

 

それから数日後。

ドラコは深夜の廊下を歩き回っていた。最近、寝つきが悪くて不眠気味で、何故だか知らないが苛立って仕方が無い。

気を紛らわそうと、深夜徘徊を決め込んでみたものの、全く気分が晴れる様子も無い。

気付けば誰にとも無く舌打ちをして、石の床を荒々しく踏みしめていた。

クラッブとゴイルを叩き起こして、何か気を紛らわす事でもさせようか‥‥ドラコが、そんな横暴な思考に身を委ねていた時だった。

何処かの部屋で、人の声を聞いた。

ドラコはシメタと思った。どこの誰だか知らないが、深夜の学校で何かをしている。ある事無い事をでっち上げて、フィルチにでも密告すれば、少しは気分が晴れるだろう。

そんな事を考えて、ドラコの顔に意地の悪い笑みが浮かぶ。事を起こす前に、哀れな生贄の顔でも見ておこうかと、ドラコは声のする方へと忍び足で向かった。

 

部屋の中に灯りは無く、申し訳程度の月明かりだけが、部屋の中に居る人影を映し出していた。

甘く湿った空気。

時折漏れる、艶っぽい吐息。

中の二人が何をしているのか、ドラコにも直ぐにわかった。

舌打ちをして、ドラコはその場を後にしたかった・・・・・けれど、やっぱり気になって更に様子を伺う。

だんだんと暗闇に目が慣れて行くと、中の人物の背格好を何となく認識できた。

1人は背の高い男。

もう1人は華奢な体型の・・・・スレンダーな女。

一体誰?

そう思って、ドラコの好奇心が増していく。

「あ・・・・・もぅ・・・せんぱ・・・・・はぁ・・・・駄目ぇ・・・・」

切ない声で鳴いたのは・・・・・少年の声だった。

そしてそれにくすくすと笑う声も、男の声だった。

・・・・・・・つまり、ドラコの目の前で絡み合っている姿態は、男同士。

「・・・・・・もぅ駄目なの?・・・・さっきイったばかりだよ?」

意地悪な男の声。掠れていて、妙にストイックに聞こえる。

「あぁん・・・・だってぇ・・・・やっ・・・も・・」

切れ切れに聞こえる、可愛らしい悲鳴にも似た喘ぎ声。

・・・・ドラコは何故かこの声に聞き覚えがあった。普段の声ではなくて、この喘ぎ声に、聞き覚えがあった。

ドラコ自身の、今の記憶の中に男を抱いた記憶など無いのに・・・。

「・・・・・・・仕方ないなぁ・・・・さっき僕を口で気持ち良くしてくれた、ごほうびだよ?・・・・今度はもっと焦らすからね?」

「・・・あっんん・・・・わかった・・からぁ・・・虐めて・・・もっ良いからっ・・・・・おねが・・い・・・・イかせて・・」

あられもない声で鳴き、男に快楽を強請る声。

ドラコは聞いていられなくなって、その場を立ち去った。

胸の中が酷くむかむかして、気分が悪かった。

 

 

翌日、昨夜に見た情景が頭から離れないドラコは、妙な不快感に苛まれて、一日中気分が悪かった。

イライラしながら廊下を闊歩する。

不機嫌な彼の様子に、誰も近寄っては来なかった。

一日の授業を終えて、ドラコが放課後の廊下を歩いているとふと視界に、馬鹿みたいに優雅な仕草で、窓辺に凭れ掛かって立っている男が目に付いた。

顔立ちの良さから、気障なその仕草が妙に似合っていて、馬鹿らしい事この上ない。

あの男は確か、ハッフルパフの・・・・セドリック・ディゴリーとか言っただろうか。・・・優男キャラで女子生徒に人気のある奴だ。

対して面識もなかったが、何故かドラコはこの男が気に食わない。

無視してさっさと前を通り過ぎようとしたら、声をかけられた。

女子生徒に人気のある、人好きのする笑みで、優しい猫撫で声で名前を呼ばれた。

「・・・・・・・・・・ドラコ・マルフォイ・・・だよね?スリザリンの・・・」

あまり好意的ではない声の掛け方だった。

「・・・だからなんだ?言いたい事があるなら、さっさと言え」

ドラコは不機嫌丸出しでそう答え、視線を合わす事もしなかった。

「・・・・・・・・・・ありがとう、なかなか美味しかったよ」

「・・・・・・・は?」

ドラコの態度の悪さに、全く気分を害した様子もなくセドリックはそう言った。

殆ど初対面の相手に礼を言われる筋合いなどないドラコは、怪訝な顔でセドリックを見た。

「・・・・あぁ、君は・・・・記憶喪失なんだっけ?・・・・・・勿体無い事をしたね・・・でも、お陰で僕たちは良い思いをしてる・・・君に感謝してるよ、ドラコ・マルフォイ?」

セドリックは更にそんな意味不明な言葉を吐いて、笑った。

その笑顔に、ドラコは背筋を虫が這い回るような嫌悪感を覚える。

・・・・・この男、何かおかしい。

「・・・・・・・・何が、言いたい?」

ドラコは吐き出すような声で、敵意をむき出しにしてセドリックを睨み付けた。

「・・・・言ったでしょう?僕は君に「ありがとう」を言いたかったんだよ・・・・・君の・・・元恋人、僕たちで食べちゃったから」

くすくす笑いながらそう言って、セドリックは怖いくらい妖艶な視線でドラコを見ていた。

「・・・・・・・・・・・だから・・・どうした?」

ドラコの言葉に、セドリックはますます笑みを濃くした。

「・・・・本当に、忘れちゃったんだね「子猫ちゃん」の事・・・・・安心してね、僕たちがいっぱい可愛がってあげるから」

意味深に、妖艶に、そう言い残してセドリックは去って行った。

残されたドラコは、言いようの無い不快感と嫌悪感から、酷い吐き気に襲われてその場に蹲る。

 

一体あの男の目的は、何だったんだ?

僕の元恋人だと?・・・・・そんなもの、知らない。

「子猫ちゃん」だとあの男は言っていた。食べたとも、可愛がるとも言っていた。・・・一体、何のことだ?

頭の中をぐるぐると思考が回る。

確かにスネイプ教授が、ドラコが誤って被った薬品が「忘却薬」だとは言っていた。しかし、何を忘れたのか、その断片を思い出せる術は何も無くて。・・・・今の自分に、欠けているものなど、何も無くて・・・。

仮に記憶を無くす前の自分に、恋人が居たとして・・・その恋人は何故、自分の所へやってこない?

常識で考えても、おかしな事だらけだ。

もしも、自分の恋人が、あの男たちの玩具として弄ばれているのなら、何故その娘は自分に何も言ってこない?

以前の自分たちの関係を知っている者たちが、何故何も言ってこない?

言えないから?・・・・・・自分たちは、そんな秘密めいた関係だったのだろうか?

わからない・・・何も、わからない。

「・・・大丈夫?」

廊下に蹲って吐き気を耐えていたドラコに、優しい声をかける者が居た。

何故か安堵するその声色に、ドラコが顔を上げると、そこに居たのは少し困った様な、怯えた様な顔の、ネビルが立って居た。

「・・・・・・・・・僕に・・構うな・・・・・どこかへ・・消えろ」

ドラコは真っ青な顔のまま、絞り出すような声で悪態を吐いた。

「・・・うん、・・・・ごめんね・・辛そうに見えたから・・・・・・余計なお節介だったよね・・・」

酷い言葉を投げかけられたのに、ネビルはそう言って笑った。

「・・・・・ごめんね・・・クラッブとゴイル・・・呼んでくるから・・・」

ドラコがネビルの場違いな笑顔に気を取られている内に、ネビルはそう言ってさっさと居なくなってしまった。

取り残されたドラコの脳裏に、今見たネビルの笑顔が張り付いて離れなかった。

数分後、ネビルの言葉通りにその場へと駆けつけてきたクラッブとゴイル。

「呼んでくる」と言ったのに、ネビルは姿を現さなかった。

 

 

深夜の談話室。

真剣な顔で話し合うグリフィンドール生が3人。

ネビルとハリーとロンだった。

「・・・・・ネビル・・・・お願い・・・もぅ止めて?・・・これ以上自分を傷つけて何になるのさ?」

ハリーは哀願するようにネビルに縋っていた。

「・・・・・・・・・・・・仕方無いじゃない・・・寒いんだから・・・・・・・・・寂しいの・・・ハリーには・・・・・・・ロンが居るから、僕の気持ち・・わからないかも知れないけれど・・・」

ハリーを責めるでもなく、怒るでもなく、ただ自棄な口調でネビルは無機質に答えた。その顔に、笑みすら浮かべている。

「・・・・そんなの、駄目だよ・・・・・ネビル・・・自分をもっと大事にしてよ・・・・お願いだから・・・・壊れていくネビルを見るの、僕もう嫌だよ・・・」

泣きそうな顔で、ネビルに縋るハリーの必死の思いは、既に壊れているネビルには届かない。

「・・・・・・・・ハリー、それは・・・僕に凍死しろって・・・そう言いたいの?」

意地悪な言葉と冷ややかな視線で、ハリーを見つめてネビルは乾いた笑みを零す。

ハリーとロンは言葉を失った。

以前の、・・・・ドラコからの愛を失う前のネビルなら、決して見せなかった顔。

壊れたように笑い。硝子球のように何の感情も称えては居ない、その瞳。表情の無い、人形のような顔。

長い間絶句して、それからハリーは、何かを決心したように口を開いた。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・わかった、・・・・・ネビルが考えを変えないなら・・・・僕が変える・・・・・・・・・・僕が、ネビルを暖める」

流石にこの発言にはネビルも驚いた。

「・・・・・良いでしょう?・・・ロン、・・・・これは、浮気にならない」

固い決意を胸に秘めたハリーに、ロンは困った顔で頷くしかない。

実の所、ハリーの許しが出るのなら、自分がその役を買って出ようと思っていたくらい、ロンも思いつめていた。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・良いの?・・・ほんとに・・・後悔しない?」

ネビルが震える声で2人に問うと、2人は笑って頷いた。

「・・・良いよ」

「ネビルが知らない誰かに抱かれているよりは、安心するし・・・・・手加減もしてあげられる」

そう言って2人は優しく両手を広げて、ネビルを包んでくれた。

ドラコを失って、自暴自棄に陥っていたネビルが得た、束の間の安らぎ。

しかしそれは、長くは続かなかった。

 

 

 

ロンはあれ以来、ドラコに何も言っては来ない。

セドリックとは、あの日以来会ってない。

ネビルは、ドラコの手の届かない場所に身を置いて、決してドラコに近付こうとしなかった。

時間だけが過ぎていった。

 

ドラコの元に、一通の手紙が来たのは事故があってから二ヶ月が過ぎた頃だった。

『今夜12時、呪文学の教室から3つ隣の教室で、素敵なショーをご覧に入れます』

新聞を切り抜いた文字で、それだけが書かれていた。

そして、ドラコは出かけて行った。

 

 

 

「‥‥‥んっ‥‥はぁ‥‥‥‥あっ‥」

深夜の空き教室の机の上に、ネビルは全裸で座っていた。左右の手首と足首をヒモで括られ、M字開脚の格好で、あられもない姿を月明かりに晒している。

開かされた足の中心は、既にネビルの吐き出すいやらしい液で濡れていて、蕾は物欲しそうに絶えずヒクついていた。ネビルの口からは、熱い吐息が漏れて、その場の空気に甘い密度を添えていた。

そんなネビルの目の前に、満足げに微笑む青年が1人。

「‥どうしたのかな?‥‥すっごく辛そうだけど‥もう我慢できないの?」

にやりと笑って、芝居がかった口調でそう言ったのは、ジョージ・ウィーズリーだった。今日は相方のフレッドは居ない。

ジョージは楽しそうに笑いながら、ネビルの剥き出しの下半身を見詰めながら、指を這わした。

ネビルの身体がビクンと跳ねた。

「やっあっ‥‥あぁっ‥やめっ‥‥」

涙をポロポロと零しながら、首を振ってジョージの愛撫を拒絶する。

「嫌?‥‥‥君のココは、もっとして欲しいみたいだけど?」

ジョージの指が、手足同様縛られていたネビルの自身へと伸びた。既に十分に濡れている先端を指で擦り、執拗にソコを攻め立てる。

「ああぁんっ‥いやぁっ‥‥もっ‥触らなっ‥で‥あうっ‥」

ネビルの口から、大きな嬌声が上がる。

「‥‥そんな大きな声を出すなよ、‥人が来るだろ?‥それとも、いやらしいネビル君は、こんな恥ずかしい姿を誰かに見られたい?」

ジョージの言葉責めは容赦が無い。

ネビルは涙を流し、それに耐えている‥‥‥けれど、彼の身体が喜んでいるのは明らかだった。

「‥‥さてと、もう良いよね?‥ネビル‥‥言ってよ、マルフォイに言ってたみたいに‥猥らな声で僕を煽って見せろよ‥‥・・・出来るだろう?」

ジョージの口の端が、楽しそうに吊り上るのを見て、ネビルの瞳から更に大量の涙が零れていった。

 

ここ数十日の間に、ネビルが戯れに身体を重ねてきた相手たちと、目の前の男は明らかに違う。

本気でネビルに固執していて、常軌を逸してしまった瞳には、ドラコへの憎しみと、ネビルへの軽蔑が深く刻まれていた。

どこで知ったのかは知らないが、双子は誰も知らない筈のネビルの秘密を知っていた。そして、ドラコを失ったネビルを、その事をネタに脅迫したのだ。

『ネビルがゲイで、スリザリンのマルフォイと付き合っているって、学校中に張り紙でもしてやろうか?』

両側から耳元で囁かれた楽しそうな笑い声に、ネビルの背筋はゾクリと震えた。

双子が口止めに要求してきたのは、当然の如くネビルの身体。

ネビルに拒否権は無い。

今の状態で、そんな事がドラコの耳に入ったら、きっともう二度と会うことは無いだろう。

軽蔑され、拒絶され、蔑まれて、きっと自分は退学を余儀なくされる。

嫌われてでも、虐められてでも、ネビルは今でもドラコの傍に居たいと願う。

ネビルは双子の要求をのんだ。

そうして始まった3人の関係。

最初のうちは、双子の性処理道具として、ネビルもそれなりに楽しんで行為に及んでいた。しかし、日を追う毎にその関係は変化していった。

ジョージの様子がおかしい。

そう気付いたのは、ネビルもフレッドもほぼ同時期だったと思う。

今までネビルと関係を持っていた、他の男たち全てをシャットアウトし、自分だけの玩具になる条件をつけた。

ネビルを狙う男たちだけでなく、双子のフレッドにさえ嫉妬の感情を露にし始めた。そして、ネビルの昔の男・・・・ドラコには、一際強い敵意を向けるようになった。

「狂った」という表現が、嫌と言うほど当て嵌まる。・・・・ジョージは、ネビルの色香に完全に参ってしまっていた。

毎日のようにネビルを空き教室へと連れ込んで、嬲る様にネビルを抱く。

最初のうちは、そんなジョージを止めようとしてくれていたフレッドに、ジョージは容赦無く怒りをぶつけた。ネビルの目の前で、2人は何度も殴りあったし、罵り合った。そして、フレッドはジョージに構う事をしなくなった。

最近では毎朝気分の悪そうなネビルを気遣い、薬を渡してくれるのがフレッドの日課になっている。

お互いに好き合っていれば、こんな事にはならなかっただろう、2人の関係。

ネビルがドラコの影を未だに捨てきれないせいで、ジョージの妬みの感情がどんどん増殖していく。

ハリーやロンは、薄々気付き始めている。ドラコを忘れられないネビルが、他の男に黙って抱かれている事。

2人が、慰め役を買って出てくれた今現在でさえ、その関係が失われていない事。

・・・・・その相手が、凄く身近な「誰か」である事も。

 

「‥‥‥‥い・・やぁ・・・・もぅ・・許してぇ・・・」

ネビルは涙で濡れた大きな瞳で、あられもない姿のままジョージを見上げて哀願する。

その顔が、仕草が、男の嗜虐心をこの上なく刺激する事を、ネビルは知らない。

ドラコが愛したその顔で、その声で、ネビルはジョージを見上げて泣いていた。

「・・ふん・・・・素直じゃないな・・ネビル、悪い子だ・・・・君の秘密をバラしてやっても良いんだぜ?・・こんな姿で僕と交わっている写真・・・マルフォイに送りつけてやろうか?」

ジョージの言葉は冷たくて、ネビルを恐怖の底へと落としていく。

「・・・・いやっ・・それだけは・・・」

ネビルは嫌々をするように首を振って、ジョージに哀願する。

それを確認して、ジョージは笑う。

「・・・・・・だったら、おねだりして見せろよ・・・君には、立派な口があるんだから・・・・なぁ・・・」

意地の悪い言葉。ネビルを虐めて楽しむ、嗜虐心だけが詰め込まれた、酷い台詞。

ネビルの頬を伝う涙の回数が増していく。

そんな事を、言いたくないのに・・・・・。言わなければ、この男は許してはくれない。嫌なのに・・・・ドラコ以外の男に抱かれるのは、嫌なのに・・・温もりが欲しい一心で、自ら堕ちていく矛盾。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・入れてっ・・・・もぅ、我慢出来っない・・のぉ・・・・・・やらしい、ネビルのお口に、・・・・・・熱いの、頂戴・・・・は・・・やく・・・・・お願いぃ・・・・・」

涙で霞む視界にジョージを見据えて、嗚咽で擦れた声でネビルはジョージの要求に従った。

満足げにジョージが笑う。

「・・・・・60点・・・「ご主人様」って言葉が入ってないし、「いやらしいお口」って、どっちの事かな?」

くすくす笑いながら、そう言ってジョージはネビルに覆いかぶさって、腰を抱え上げた。

「なぁ、・・・・ネビル・・・コレが欲しいのは、どっちのお口?」

ネビルの蕾に、起立した熱い自身をあてがって、ジョージが卑猥に囁いた。

快楽を求めて、思考が霞んだネビルには、もう理性なんて残っていない。涙と共に、零れ落ちてしまった。

「ん・・・・ぁっ・・・ご主・・人さまぁ・・・・・・ネビルのっ・・淫乱な下のお口に、・・・おしおきしてぇっ・・・」

自由にならない身体で、懸命に腰を揺らしながらネビルはジョージに哀願の演技をした。

ドラコは、こんな事強要したりしなかった。こんな風に、ネビルを玩具みたいには扱わなかった。

壊れていくネビルの心を、欲望に狂ってしまった目の前の男は、知る由も無い。

「・・・・・・・・・最初からそう言えよ、淫乱・・・」

ネビルの言葉にそう答えて、ジョージは慣らしもせずに自分の欲望を、ネビルの身体の奥深くへと一気に埋めた。

「あっひぃ・・んあっ・・・あぁぁっあっあああぁぁっ・・・・んんっはっ・・あぁぁんっ・・・」

欲望のまま、滅茶苦茶に突き上げられて、ネビルは痛々しい悲鳴を上げて泣き叫ぶ。

とても愛ある行為とは思えない、狂った行為。

 

ドラコの心臓は、馬鹿みたいに暴走していた。

今、目の前で起こっている出来事は、現実なのだろうか?・・・・・それとも自分は、夢でも見ているのだろうか・・・。

手紙の指示通りに、指定された場所に来ていたドラコ。「素敵なショー」と言うには、悪趣味な光景。

あのネビル・ロングボトムが、男に犯されている。しかも、その様子は強姦じみたものなのに・・・・行為自体には慣れているようにも見える。

それなのに、決して喜んではいないようで、今現在も彼の悲鳴が静まり返った夜の廊下に響いていて、耳に痛い。

どうして、彼が一方的な行為に素直に応じているのか・・・・・彼は、自分が嫌だと思ったら、頑としてその意思を曲げようとはしない性格で、何故かドラコはその事を良く知っている。

 

『マルフォイに言ってたみたいに‥』

『・・マルフォイに送りつけてやろうか?』

 

ここでも出てきた自分の名前。

事故の日を境に、何故かネビル関係の引き合いに出される事が多い自分の名前。

一体、自分とネビルの間に、自分の知らない何があると言うんだろう?

随分前に聞いた、ネビルが自分を好きだという話。

セドリックに言われた、「子猫ちゃん」の話。

もしかして、自分の元恋人は・・・・ネビル・ロングボトム?・・・・そんな・・まさか・・・。

目の前の2人の行為は、精処理道具のセックスフレンドと言う関係にしては、度が過ぎている。

これでは、一方的な暴力と変わらない。

ジョージのネビルに対する執着は半端ではない。けれど、ネビルの態度は彼に怯えてはいない。ただ、何か弱みを握られていて、従っている・・・と言う感じだ。

・・・・・ゲイだと言うだけで、こんな酷い仕打ちをされているんだろうか。

ドラコの中に、ふつふつとジョージに対する怒りが湧いてきた。

いくらなんでも、こんな関係、ネビルが可哀相だと思った。

ドラコの脳裏には、記憶を失ってからのネビルの顔が浮かんでいた。

目を開けた瞬間の、泣いていた顔。

その直後、「ごめん」と言った、傷付いた顔。

蹲る自分に「大丈夫」と声をかけてきた、怯えた顔。

酷い事を言ったのに、「ごめん」と言いながら、笑っていた顔。

記憶を無くしてからのネビルの記憶は、本当に些細なもので。ともすれば記憶の中に埋没して、忘れてしまいそうなのに。ドラコは何一つ忘れる事が出来なかった。

 

ドラコが、部屋の中に怒鳴り込んでいこうかと、迷っていた時だった。

一陣の風が、ドラコの目の前を通り抜けた。

そして、次の瞬間聞こえてきたのは、ネビルの悲鳴に混じった、凛とした声。

「ステューピファイ!!!」

・・・・・あの声は、ハリーの声だ。

ドサリと床に誰かが倒れる音がして、ネビルの悲鳴が止んだ。

ドラコが部屋の中を覗きこむと、ジョージが倒れていた。

そして、乱暴な行為のせいで呼吸困難に陥っているネビルが、息も絶え絶えにハリーの腕の中に抱きかかえられていた。

それから、ドラコの後方からばたばたと走る音が聞こえてきて、フレッドとロンが部屋の中に現れた。

「ネビル!!」

「大丈夫か!?」

余程焦っていたのだろう。

スポーツ万能のはずの2人が、ネビルよりも苦しそうに息を弾ませていた。

「・・・・・・・・・平気、・・・・ジョージを失神させたから・・・」

2人に答えたハリーの声は無機質で、感情を称えては居なかった。

ハリーはネビルの手足を拘束していた紐を解き、ネビルの身体を開放すると清めの呪文を紡いだ。

そして、綺麗になったネビルの身体を、愛しそうに抱き締めた。

「・・・・・・・・どうして、言ってくれなかったの?・・・・・こんな酷い目に遭ってる事・・・どうして黙っていたの?」

悲しそうなハリーの声が、静かな部屋に響く。

「・・・・・だって・・・・・・ロンの・・・お兄さんだ・・・憎めないよ・・・」

こんな状況でも、ネビルは笑った。

「・・・だからって!!いくらなんでも・・・・ネビル・・・・・・・どうして・・・」

悲痛な叫びは、ロンの声。

ネビルを助けるつもりで、ネビルを抱いていたハリーとロン。

こんな仕打ちを受けていたのなら、その行為自体、ネビルにとっては苦痛だったに違いないのに・・・。

「・・・・・・僕、・・・おかしいから・・・淫乱だって良く言われる・・・・・・・だから、平気・・・・ハリーたちに優しくしてもらえて、嬉しかった・・・・」

微笑むネビルの顔は、儚くて・・・・酷く危うい。

「・・・・・・・・・・・・・・・・ネビル・・・」

ハリーは抱いていたネビルの身体を、更に強くぎゅっと抱き寄せた。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・お前のせいだ・・・」

そんなハリーとネビルを見ていたロンが、ぽつりと言った。

その声に、その場に居た全員がロンを見る。

「・・・・・お前のせいで!!・・・なんで、ネビルを忘れたりしたんだよ!!あんなに、好きだってっ・・・・僕に惚気ていたじゃないか!!なぁ、マルフォイ!!・・・・お前が忘れたりしなければっ・・・・・こんな事にはっ!!」

ドラコに振り返ったロンは飛びつくような勢いで、ドラコの胸倉を掴んで怒鳴った。

「・・・・大体、なんでお前がここに居るんだよ!!ネビルの事を忘れたんだろう!?・・・・なんでお前はそうやっていつも、傷口に塩を塗りこむんだよ!!」

怒りをそのままに、多少支離滅裂な言葉の羅列ではあったが、ロンが怒っている事を示すには十分すぎる言葉だった。

一方、怒鳴られたドラコは、あっけにとられてただロンに成されるままで居た。

ついさっき、ドラコが辿り着いた答え。

その答えを肯定する、ロンの言葉。

それが事実ならば、ロンの怒りは最もで、自分はこんな場所に居るべきではない。

そんな事を考えながらロンを見ていたドラコの視界に、突然割り込んできた影が居た。

「・・・駄目!止めて!!・・・・・ドラコを傷付けないで!!」

全裸のままで、手足に縛られた跡が生々しく残る身体で、ネビルがロンの手を振り解こうと、2人の間に無理やり割って入った。

「僕が傷付くのは構わない・・・・・良いの、・・・ドラコを忘れられない、僕がいけないの・・・・だから、ドラコは悪くない・・・・・・だから、お願い・・・・ドラコを傷付けないで・・・・悪いのは、僕だから・・・」

必死にロンの手を退かせて、ネビルは一糸纏わぬ姿でドラコの前に、壁のように両手を広げた。

ドラコもロンも、そんなネビルに圧倒されて、何も言えず、その場から動けず、ネビルを挟んで立ち尽くしていた。

「・・・・・・・・・・・ネビル・・・わかったから・・・・・・もう、泣かないで・・・」

優しい言葉でネビルにローブを被せて、ハリーがそのままネビルの身体を抱き締めた。

「・・・・・もう誰も、マルフォイに酷い事を言ったりしないから・・・・ね?・・・ネビル、無理しちゃ駄目だよ・・」

ハリーだって本当は、ドラコを怒鳴りたい。殴りたい。「お前のせいで」と罵りたい。・・・・けれど、ネビルがそれを望んでいないのならば、我慢する。

ネビルは、かけがえのない、大切な友達だから。

いつだって笑顔で、ハリーを勇気付けてくれた。切れかけたロンとの絆を、いつも一生懸命に繋ぎとめてくれていた。

感謝してもし足りない・・・・そんなネビルが望む事だから、ハリーは我慢を厭わない。

 

パン、パン、パン。と、乾いた音が深夜の教室の中に、場違いに響いた。

いつの間に現れたのか、部屋の入り口に気配も足音も感じさせずに、男が1人立って居た。

「・・・・・・・・・・・・・・・・セドリック・ディゴリー・・・?」

そう呟いたのは、ドラコだけだった。

ドラコ以外の人たちは、目を見開いて彼を見ていた。

セドリックは気のない動作で、拍手をしていた。

「・・・ショーはどうだった?ドラコ・マルフォイ?・・・・・素敵だったろう?子猫ちゃん・・・可愛らしく鳴いていたじゃないか・・」

くすくすといやらしい笑い方をしながら、セドリックはドラコを見ていた。

「・・・・・・・・お前が・・」

手紙を出したのか?そう続けようとしたドラコの声を、警戒心で満ち満ちたハリーの鋭い声が遮った。

「・・・誰だお前?・・・・・・・・・・セドリックは、僕の目の前で死んだんだ・・・こんな所に居るはずがない・・・・」

注意深く杖を構えたハリー。気付けば、ロンもフレッドも、ハリーと同じ様に警戒の視線で杖を構えている。

「・・・・・・残念だなハリー・・・僕を忘れてしまったのかい?」

いかにも悲しそうな声と仕草で、演技がかった台詞を吐き出す、セドリックの形をした「誰か」。

「・・・・知らない・・・・セドリックは、そんなに馬鹿な台詞は吐かない・・・・・・・・・・・・・・・・・・そんなに、闇臭くない・・・お前はセドリックじゃない」

低く、警戒心に満ち満ちた声でそう言って、ハリーは杖腕ではない腕で、ネビルを守るように抱き締めた。

「・・・じゃあ、誰だって言うんだ?・・・・よく見てよ、ハリー・・・・僕の死に顔、まだ覚えているでしょう?・・・・セドリック・ディゴリーの顔は、僕の顔じゃないのかい?」

不敵に笑って、そいつはハリーへとゆっくりと歩みを進める。

「近付くな!!」

フレッドが叫んで、ハリーの前に躍り出た。

事態を上手く飲み込めないながらも、ドラコも無意識にハリー達の方へと加勢するように近付いて、いつでも杖を抜ける体勢をとった。

「おや・・・・・・久しぶりだね、フレッド・・・元気にしてた?」

勇ましいフレッドを見据え、にやりといやらしく口元を吊り上げた男の顔。セドリックの優しい笑顔とは、似ても似つかない。

フレッドは何も答えず、ただ険しい視線だけを男に向けた。

「君たち本当に良く似ているね、ジョージとそっくりだ・・・・ジョージとは、僕・・・久しぶりじゃないんだよね」

男は気分を害した様子も見せずに、床に倒れているジョージを見て、楽しそうにくすくすと笑った。

「・・・・ジョージに、何をした?」

男の意味深な言葉に、フレッドは敵意を一層強く瞳に滲ませて、男を睨み付けた。

 

ここへ来る少し前。

ネビルが居ない事に気付いたハリーとロンが、慌てて寮を出ようとしていた所を、フレッドが呼び止めた。

そして、自分たちがしてしまった事を洗いざらい2人に話して聞かせた。

ネビルを嬲るジョージの凶行を、これ以上野放しには出来なかったのだ。

2人は烈火のごとく怒り、フレッドを責めた。

しかし、最近のジョージの様子を聞いて得心がいかない。

確かに双子はどうしようもない悪戯っ子ではある。

けれど、どちらか一方が、己の私利私欲の為に兄弟を殴って、敵意を向けた事なんて今までに一度だって無い。

「わからない・・・・・とにかく、何かに取り憑かれたみたいなんだ・・」

その事を問いつめられて、フレッドは苦々しくそう吐き捨てた。

彼にだってわからない。

ジョージの突然の豹変。その様子は、長年一緒に生活している彼でさえ、奇異すぎて理解に苦しんでいた。

その答えに、フレッドはようやく行き着いた。

 

「なにもしていないよ、ただ・・・・・子猫ちゃんを独り占めしたくないかい?って、聞いただけだよ・・・・少し、アドバイスはしてあげたけどね」

にっこりと、気味の悪い笑顔を顔に貼り付けて、セドリックの顔をした男は、飄々と言った。この状況を心底楽しんでいるとしか思えない。

「何をした!!」

堪らずフレッドは、男に殴りかかっていた。

「駄目!!!!」

同時に叫んだのは、ネビルだ。

でも遅かった。

フレッドの身体は、男に届く事無く見えない何かに、跳ね返されて床に転がる。

「痛つぅ・・・・・・くそっ・・」

強く打ち付けた身体を庇うように呻き、フレッドは鋭い視線で男を睨む。

「・・・・その人・・・・・・・・人間じゃないよ・・・」

ネビルが恐怖に怯えながら、それでも精一杯の声でそう言った。

「・・・・・・前に、ドラコの部屋で読んだ本に・・・・書いてあった・・生気の無い人間は、影が出ない」

ネビルの言葉に、一斉に皆の視線が男の影のあるべき場所へと走る。

確かにそこには、あるべき影が無い。

皆の視線が恐怖で引き攣るのを、男はくすくす笑って見ていた。

「・・・・・・・・蛇・・・」

ドラコがポツリと呟いた。

ネビルの言葉に誘発されて、ドラコも思い出していた。

何かのレポートで必要になって、妖怪とか、怪奇現象とか、その類の本を図書室から借りた時に、その本に載っていた記事に、確かそんなのがあった。

何千年も生きている蛇には、不思議な力が宿って、人の姿に化けたり、呪いを使ったりして、人間を困らせるとか、そんな話。

人間に化けても根本的に変身する事が出来ない蛇は、影を持たないのだ。

 

ドラコの台詞に、それまで何を言われても飄々としていた男の顔が歪んだ。

「・・・・・やぱり、始末しておくべきだったな・・・・ネビル・ロングボトム・・・ドラコ・マルフォイ・・・それから、ウィーズリー・・・・・」

舌打ちと共に、苦々しげに余裕に無くなった顔で言い放つ。

「純粋な魔法族は、勘が良くていけない・・」

もう笑っては居ない、冷酷な顔でそう言って、手をかざす。

攻撃されると本能で察して、ドラコも杖を抜く。

ハリーもロンも、フレッドも、杖を握る腕に力を込めた。

・・・・・しかし、何の魔法を使って良いのかわからない。

相手に何が有効なのか、わからない。

最初に動いたのはハリーだった。

「エクスペクト・パトローナム!!」

叫んだ途端に杖先からまばゆい光が噴き出す。

少し遅れて、フレッドとロンも叫んでいた。

「エクスペリアームズ!!」

「ステューピファイ!!」

そしてドラコも。

「クルーシオ!!」

 

結局何が有効だったのかは、わからない。

四方向から矢継ぎ早に放たれた魔法は、一点に向かって鋭く突き刺さり、部屋を真っ白に染めた。

爆発音に混じって、おぞましい悲鳴が聞こえた。

そして光が消えた数十秒後、男が居た場所にはもう何もなかった。

彼の正体も、目的も、謎のままだ。

騒ぎを聞きつけて、数名の教授が直ぐに駆けつけた。

ジョージ以外の五人は、ドラコとネビルの過去以外、知っている事を全て話した。

五人の話は辻褄が合っていた。

そして大賢者であるダンブルドアは、ついさっきまでこの場に存在していた闇の者の存在を、静かに肯定した。

ジョージは数日間、保健室での療養を言い渡され、残る五人には何の処罰も与えられなかった。

 

 

 

それから半月。

ネビルはドラコと会話はおろか、視線を合わすこともしていない。

ハリーとロンからの慰めの温もりも、あの事件以来断った。

ドラコ以外の男に抱かれる事も無くなった。

ジョージはあの時の記憶をすっかり無くしていた。

フレッドから事情を聞いて、青ざめたジョージはその足でネビルに土下座までして謝った。

勿論ネビルは笑顔でそれを許した。

あれは悪意のある仕組まれた事故。誰も悪くない。

ネビルを取り巻く状況は、ドラコと付き合う前の日常に戻った。

ネビルの顔にも、少しずつ笑顔が戻りつつある。

偽りではない、かつてドラコが愛してくれた本物の笑顔。

ハリーとロンは、今でもネビルのことを酷く気遣ってくれている。

衝撃的な事件があった事は事実だが、その事でネビルの抱えた問題は、何も変わったりはしていなかったから。

ドラコはネビルの事を忘れたまま、以前の事を知っても、何も言わない。ネビルを特別意識している様子も見せない。

その事にネビルが傷付いてはいないかと、いつも過剰なくらいネビルを元気付け、癒そうと努力していた。

そんな彼らの努力を無駄にはしたくなくて、ネビルはドラコを忘れようと決めた。

自分がいつまでも女々しくドラコの影を追っていた事が、今回の事件の発端だったと、酷く責任を感じていたから、これ以上迷惑をかけたくなかった。

 

土曜日に温室へ行く事は、ネビルが入学した時から欠かさない日課だった。

付き合いだす前、告白をしだした頃のドラコは、よくネビルの帰りを廊下で待ち伏せていた。

図書室と、温室と、玄関ホールと、スリザリン寮。それらへ続く道が交わる、十字路で屈託の無い笑顔を覗かせて、ネビルを待っていた。

付き合いだしてからは、ネビルが自らこの廊下を左へ折れて、ドラコの部屋へ行くのも日課の1つに加わっていた。

この場所を通る時、ネビルは少しだけ胸が痛む。

失ってしまった優しい笑顔を、やっぱりまだ求めてしまっている愚かな自分を自覚する。

知らず溜息が零れた。

忘れなくちゃ。

そう思うのに、忘れられない。

忘却薬が欲しい。

ドラコと同じ様に、懐かしい幸せな日々の記憶を無くしてしまいたい。

そう思うのに、出来ない。無くしたくない。

十字路の真ん中で、ネビルの足が止まった。

失った日々に縋るように、誰も居ない薄暗い左の廊下を見詰め、もう一度溜息を吐く。

 

「邪魔だ、真ん中で立ち止まるな・・・・毎回毎回、その辛気臭い顔、鬱陶しい」

何時の間にか、ネビルの視線の真ん中にドラコが立って居た。

いつもの辛辣な台詞を吐きながら、ネビルを見据えている青い瞳。

「・・・・・・・ド・・・・・・・・・・・・・・・マルフォイ・・・」

ネビルは目を見開いて、震える声で呟いた。

どうして?

と、その視線が語っている。

ドラコは何かに苛立っているみたいだった。

ネビルを睨みつけ、舌打ちまでする。

 

そんなに・・・・・・・・・嫌いなんだ、僕の事。

知っていたけど・・・ドラコが、僕を好きだなんて、気の迷いだと、知っていたけど・・・・・人の心は、こんなに簡単に変わってしまうものなんだね。

あんなに愛してくれたのに。

僕を好きだと、言ってくれたのに。

 

ネビルの顔が今にも泣き出しそうなくらい歪む。

「・・・・ごめんなさい・・・」

ドラコの目を見ずにそう呟いて、ネビルはドラコの視線から逃れるようにその場を去ろうと、足を踏み出す。

感覚なんて無かった。

折角、久しぶりに言葉を交わせたのに。

嬉しくなんかなくて。

ただ、悲しい。どうしようもないくらい、悲しい。

今にも倒れそうなくらい、ネビルの胸は悲しみで満たされている。

唯一残っている理性が、ここで倒れたりしたらドラコに迷惑がかかる・・と、ネビルに警鐘を鳴らす。それに導かれるまま、ネビルは足を動かした。

でもネビルは、立ち止まっていた場所から殆ど動けなかった。

ドラコの腕が、ネビルの腕を掴んで離さなかったから。

「・・・・・・・・・」

ドラコは無言のままで、ネビルの小さな身体を引きずるようにして、傍の教室の中へと連れ込んだ。

机の上に押し倒されて、衣服を脱がされる。

ネビルは抵抗もせずに、ドラコにされるまま、彼の行為を受け入れた。

男との性交の記憶の無いドラコの行為は、少し乱暴だったけれど、慣れたネビルの身体は全てを受け入れる事が出来た。

慣れ親しんだドラコの体温に包まれて、場違いに酷く安心していた。

ドラコの行為は強姦だったのに、ネビルは確かに幸福だった。

 

「・・・・僕のものになれ・・他のヤツに触らせるな・・・・・僕が飼ってやる」

行為の終わりに、ドラコはネビルにそう吐き捨てて、さっさと身支度を整えると、答えも聞かずにその場を後にした。

残されたネビルは、乱れた着衣を直しもせずに泣いた。

嬉しくて仕方が無かった。

ドラコに触れられた事も、独占欲にも似た言葉で命令された事も、飼ってやると言われた事も、全てが嬉しかった。

そして二人の主従関係は始まった。

毎週土曜日の午後。

温室を出たネビルは、主人の下へと足しげく通う。

 

 

 

 

「あぁっ・・・・はぁ・・・んっあ・・・」

真っ暗な部屋の中に、押し殺したネビルの嬌声が響く。

ドラコはいつも無言でネビルを貫く。

彼の態度は相変わらずで、土曜日のこの時間以外は、酷い言葉でネビルを攻撃する。

けれど決して飽きては居ない。

今日のように、ほんの少しネビルの到着が遅れただけで、独占欲にも似た言葉でネビルを責めてくれた。

ネビルにはそれが嬉しい。

彼が望んでくれるなら、彼の傍に居られるのなら、何だって耐えられた。

酷い事をされても、辛辣な言葉で虐げられても、彼が本気で憎んだ相手とは絶対にSEXなんてしないと知っているから。

抱いてもらえる間は、こうやって快楽を共有できている間は、彼が少しだけでも自分に固執していてくれているのがわかるから。

「うあっ・・・・・んんっ・・・ひぃ・・・・・っは・・・・ん」

身体の最深部にドラコを感じて、ネビルは必死で声を殺す。

日の高い時間、声を誰かに聞かれたら、この関係が発覚してしまったら、ドラコはもう二度と自分を抱いてくれないだろうから。苦しくても我慢して、唇を噛み締める。

机に両手を突いて、後ろ向きに腰を突き出して、ドラコの欲望を受け止めているネビルは、可哀相なくらい従順だ。

ドラコに捨てられまいと、一生懸命に理性を保っている。

記憶を無くしてから、何度かネビルが他の男に犯されている所を目撃しているドラコは、そのあまりの健気さに眩暈がする。

どうしてこんなに純粋で素直な人間が、自分なんかをこんなにも好きで居てくれるのだろう。

記憶を無くして、酷い仕打ちで何度となく虐げ、その上自分勝手な欲情で犯しているというのに・・何故。

ネビルには見えないドラコの顔が、苦しげに歪んだ。

腰をネビルの最奥に埋め込んだまま、ドラコは縋るようにネビルの肩と腹に腕を回す。

ぐちゅりと、淫猥な音を立てて、ネビルの中で脈打つドラコの欲情。

「・・・・んん・・・・・・んあぁ・・・」

ネビルはビクンと背を反らせて、押さえ切れない甘く濡れた声をこぼす。

 

「好きだ・・・・ロングボトム・・」

 

ネビルの鼓膜を、小さな声が震わせた。

そして、ネビルが聞き返す暇も無く、ドラコは激しく腰を動かす。

「ひぃ・・・・・あっや・・・・・んんんっ・・・・・・はっ・・・」

激しい感触に、どうしても漏れてしまう喘ぎを、ネビルは手を噛んで堪えようとした。

その手を、ドラコの骨ばった手が遮った。

「・・・・・・殺すな・・・声を・・聞かせてくれ」

耳元で囁いて、ドラコはネビルの耳たぶを甘噛みする。

「やぁん・・・・んんあ・・・あっ・・・・あぁ・・・」

ネビルは仰け反って、身体を震わせた。

耳元で聞こえるドラコの舌の動く音と、甘い感触に、襲い来る快楽で思考が焼き切れそうだ。

ネビルの苦しそうな体勢を見かねて、ドラコは自身を挿入したままで、器用にネビルの身体をひっくり返し、机の上に乗せる。

この関係を続けて、早半月。

初めて行為の最中に、二人の視線が噛み合った。

快楽に上気した頬。涙で濡れた瞳。荒い息を吐き出す、血の滲んだ赤い唇。なまめかしいネビルの姿が、ドラコの瞳に晒される。

ネビルは縋るような視線でドラコを見上げていた。

さっきのドラコの言葉を聞いて、戸惑いと不安が入り混じった視線。

事故とは言え、一度ドラコに裏切られている彼は、涙を流しながらドラコに無言の懇願をしていた。

捨てないで。

それを見据えて、ドラコは静かに表情を和らげた。

「・・・・そんな顔をするな・・ネビル・・・・・君の勝ちだ・・僕の心を二度も掴んだ・・」

強姦と言う最低な行為の最中に、突然与えられた愛の告白。

ネビルは何度も瞬きをした。

この光景が、ドラコの言葉が、嘘じゃないと、何度も心の中で確認した。

ネビルの滲む視界の中で、ドラコの姿も、青い瞳も、身体に埋め込まれたままの熱も、全てが消えずにちゃんとそこに存在していた。

おずおずとネビルの腕が自分の首筋に回るのを、ドラコは優しく見守った。

「嬉しい・・」

しっかりとドラコにしがみついたネビルは、瞳を閉じて呟いた。

 

 

終幕

 

以前、凛さんの本にゲストで出した駄文の再録です。

ハリポタ本ではなく、「記憶喪失」をお題にした企画本でした。

出会い頭に原稿を頼まれて、そのまま三日間、凛さんの家で合宿したのを思い出します(笑)

凛ちゃんは、「これ一本で本が出来る」と言ってくれたのですが・・・なんか申し訳ない&恥ずかしかったので、サイトでUP。

あとがきも載せたかったな・・・あ、ちょっと早まったかも(苦笑)←往生際悪い・・・。

2005・01・22 みづきちよ

 

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