合縁奇縁

 

「なぁ、ネビル?聞いているのか?」

ドラコに顔を覗き込まれて、ネビルはハッとして現実に引き戻ってきた。

「‥‥ごめん‥考え事‥してた‥」

曖昧に言葉を濁すネビルの顔が、青ざめている。

心なしか、目の焦点も合っていない。

「‥大丈夫か?」

心配そうに、ドラコが優しく声を掛けたが、ネビルは聞いていないみたいだ。

再び、自分の思考の中へと入り込んでしまっている。

ドラコは小さく舌打ちをして、ネビルを抱き締めたい衝動を耐えてネビルを見詰めた。

 

「意地悪をしないのなら、お友達になってもいいよ」

 

一ヶ月もの間、告白をし続けたドラコに、一週間前ようやくネビルが出した答えだった。

ネビルの中で、ドラコの評価が「怖い・意地悪・嫌い」だった一ヶ月前に比べ、「お友達」はかなりの進歩だ。

それから、二人は放課後や休日の僅かな時間を、一緒に過ごすようになった。

始めの内は、お互いに緊張してしまい、会話もぎこちなかったが、三日もすると大分慣れて、会話も普通に出来るようになった。

ドラコには下心があったが、ネビルはそれを知った上で「お友達」になる事を許してくれたのだ。

それにドラコは誠意を持って答えようと、一生懸命だった。

努力など全く厭わないくらいに、ネビルが好きだった。

このまま、ゆっくり「お友達」から「恋人」になれるまで、頑張ろう‥とドラコは思っていた。‥昨日までは。

昨日、二人の密会場所である隠し部屋にドラコが足を踏み入れた瞬間から、ネビルの様子がおかしかった。

ぎこちない笑顔で、無意識にドラコからの距離を離そうとしていた。

それはまるで、ネビルに嫌われていた頃の自分に戻ってしまった様な錯覚を、ドラコに起こさせた。

その後、二人の会話は擦れ違い、全く噛み合わなかった。

ネビルは終始身体を震わせ、青白い顔をしていた。

ドラコは、再びネビルに嫌われたのだと、そう思う他になかった。

 

しかし、今日もまたネビルは密会場所にやって来た。

ドラコが居ると知っているこの場所に、自らの意思でやって来たのだ。

嫌われていた訳ではなかった‥と、ドラコが喜んだのも束の間、ネビルの様子は昨日よりも明らかにおかしい。

まるで、悪夢の白昼夢を見ているみたいに、青ざめた表情で空を見詰め、身体を震わせている。

理由をドラコが何度問いただしても、ネビルは答えなかった。

曖昧に言葉を濁し、再び空を見詰めてしまう‥。

理由がわからないのでは、ドラコにはどうしようもない。

助けてやることも、守ってやることもできない。

好きな人の前で、ドラコはどうしようもなく無力だった。

 

 

夕食を終え、寮に戻る途中に、どうしても通らなければならない場所がある。

スリザリンとグリフィンドールの寮の分かれ道。

原則として、他寮の場所は秘密と言う事になってはいたが、ネクタイの色や顔ぶれで、なんとなく方向や場所は特定できてしまう。

大広間から来る道が二股に分かれ、スリザリン生が一方に残りの寮生が反対方向へと進む。

そこで、一昨日ネビルはスリザリンの上級生にぶつかってしまった。

間が悪く、一緒に歩いていた友人たちは気付かずに人の波に乗って行ってしまった。

残されたネビルは、ただ震えるしかなかった。

謝っても、意地の悪い笑みを浮かべたその先輩は許してくれず、強引にネビルを近くの狭い部屋へと押し込んだ。

 

「許して欲しかったら、せいぜい良い声で泣く事だな」

耳障りな声でそう言って、眼鏡をかけた神経質そうな顔をしたスリザリン生は笑った。

そして、恐怖で涙を流しながら震えるネビルを容赦なく犯した。

痛みと恐怖で、ネビルの口から悲鳴が引っ切り無しに零れるのを、楽しそうに笑って見ていた。

「もっと泣けよ、‥もっと聞かせろよ、お前の卑猥な悲鳴を‥」

男の目には狂気が宿り、執拗にネビルの身体を嬲った。

その度に、ネビルは涙を流して拒絶の言葉を叫んだ。

しかし、それは男の欲情を煽るだけでしかなかった。

ようやくネビルの身体が開放されたのは、消灯を過ぎてからだった。

 

翌日も、同じ場所で同じ男に捕まった。

そして繰り返される、痛みでしかない行為。

手首を拘束され、何度も身体を貫かれる痛み。

痛みに意識が霞んで、いつしかネビルは悲鳴を上げることもしなくなった。

男の荒々しい息遣いと、身体が軋む音しか聞こえなくなった空間に、男は苛立った。

「泣けよ‥昨日みたいに、震えろよ‥」

ネビルの虚ろな顔に、杖を向け、脅す様に凄む。

ネビルはそれを、薄れる視界で傍観していた。

杖の先から、光が放たれ、ネビルの身体を包む。

瞬間、ネビルの身体に電撃の様な衝撃が走った。

「ひっぃあっいやああっ!!」

背を仰け反らせて悲鳴を上げるネビルに、満足したように笑い、男は再びネビルの身体を貫く律動を開始した。

ネビルの身体を支配したのは、痛みではなく、快楽だった。

自分を強姦する男に、ネビルは快楽を感じていた。

そして男は、快楽に喘ぐネビルに欲情する。

こんな男に犯されて嫌なのに、身体が勝手に反応する。

嫌だと叫ぶ声は、乱れた自分の喘ぎに掻き消された。

「‥‥淫乱‥」

男はネビルを攻め立てながら、卑猥な台詞を何度も呟いた。

そんな事ですら、ネビルの快楽を追い立てる。

男が満足して部屋から出て行った後、ネビルは自分が酷く汚らわしい生き物に見えて、堪えきれずに嘔吐した。

 

最初に男に犯された日を境に、ネビルはスリザリン生に過敏な拒絶反応を示すようになっていた。

元々、あまり仲の良くない寮同士、そして人一倍気の小さいネビルの変化に気付く者はいなかった。

ただ一人、ドラコ・マルフォイを除いては‥。

二度目の強姦の後、ネビルは同じ寮の監督生の眼鏡にも、拒否反応を示すようになった。

友人である、ハリー・ポッターの眼鏡にも。

寮にも、校内にも行き場を無くしたネビルが向かったのは、いつもと同じ場所。

ドラコと二人で過ごす隠し部屋だった。

「‥‥ネビル?‥」

夕闇が迫り、そろそろ二人が別れる時間になっても、相変わらずネビルは空を見詰めて震えていた。

ドラコの声も、相変わらずネビルには届かない。

仕方なく、ドラコはネビルの肩に触れた。

ネビルは即座に反応し、ドラコの手を勢い良く振り払った。

そして、呆然とドラコと自分の手を見詰めた。

「ごめ‥‥僕‥‥あの‥」

ネビルは自分の行動が信じられないと言った様子で、自分の手とドラコを何度も交互に見詰めた。

「ネビル」

ドラコはネビルの前に跪き、優しく問いかけた。

「‥‥何があった?」

真っ直ぐにネビルを見詰める瞳は、優しく‥そして悲しそうだった。

ネビルは首を横に大きく振った。

‥言えない。

男に犯され、挙句悦んだ身体だなんて‥言えない。

 

「僕を見ろ‥ネビル‥‥話してくれないか?」

ドラコの言葉も、仕草も、優しかった。

優しすぎて、ネビルは縋ってしまいそうになる。

思わず口を開きかけて、ネビルの視線がドラコの首、ネクタイの所で止まった。

スリザリンのネクタイ。

瞬間的に、脳裏に犯されている時の情景が浮かんできて、ネビルは激しい嘔吐感に襲われる。

堪らずにネビルは口元を押さえ、ドラコを押しのけて部屋を飛び出した。

残されたドラコは、呆然と自分のネクタイを凝視したまま、暫くそこを動けなかった。

そして、ようやくネビルの変化の原因に思い至った。

ドラコは昨日の消灯後、談話室で聞いた話を思い出していた。

スリザリンの中でも、あまり好かれていない暗い趣向を持った先輩たちの話。

眼鏡を掛けた、リーダー格の男が自慢気に「グリフィンドールの2年を強姦してやった」と話し出したのだ。

見るからに力の無さそうな、貧弱なその男に犯されるなど、馬鹿な女も居たものだ‥と、その時は気にも留めていなかったが、もしかして‥ネビルが?

信じたくはないが、あまりに辻褄が符合していて、ドラコの鼓動は早くなった。

早くどうにかしないと、ネビルの身に再び危険が迫ると思ったら、居ても立っても居られなくなる。

自分の思い違いであって欲しいと願いながら、ドラコはネビルの後を追った。

 

トイレにも、大広間にも、どこにもネビルの姿は見つけられなかった。

同時に、眼鏡の上級生の姿も見えない‥ドラコの胸に不安が増殖していく。

ドラコは廊下を歩きながら、昨夜の上級生たちの話を思い出す。

 

「昨日は痛がって泣いていたくせに、魅惑の呪文をかけたらひぃひぃよがってたよ」

「すげえな、お前どこでそんなおいしい事してるんだよ?」

「‥の‥‥かれ道‥行き止まりの‥‥‥だよ」

「へえ〜、俺もまぜろよ」

「駄目駄目、壊れちまうよ」

 

ドラコや、他に談話室に残っていた生徒を気にしてか、重要な所が小声だった為に、こんな事くらいしか覚えていない。

分かれ道?

行き止まり?

‥‥‥、

‥‥‥‥‥あそこか!?

ドラコの脳裏に、一つの教室が浮かんだ。

確証は無かったが、行ってみる価値はあると思った。

何も無ければ、それに越したことはないのだから‥。

目的の場所に着くと、ドラコは何の前触れも無く扉に開錠呪文を唱えて扉を勢い良く開けた。

 

ネビルは、ここ数日で一番嫌いになった小部屋の中に押し込まれていた。

偶然にも、誰も居ない廊下であの男に出会ってしまった。

なんて凶悪な、悪魔の仕向けた偶然だろう。

ネビルにとって、それは限りなく地獄に近い。

しかも、今日は一人じゃない。

二人掛かりで圧し掛かられて、抵抗も何もあったものじゃなかった。

当然のように組み敷かれ、杖を向けられる。

昨日と同じ呪文だろうか‥。

自分は、このままずっとこの男の慰み者として生活しなければならないのか‥。

そう考えたら、無性に悲しくなってきた。

そして、自分を好きだと言ったドラコに申し訳なくなってしまった。

自分は穢れた身体なのに、何も知らずに優しく接するドラコが可哀相に思えた。

つい一ヶ月前まで、大嫌いだったドラコに、こんな思いを抱くなんて‥。

ネビルの視界を、光が包む。

どうせ逃げられない‥そうわかっているので、ネビルは怯える事もしなかった。

 

その時、魔法で錠をしてあったはずの扉が、勢い良く開いた。

ネビルに圧し掛かっていた二人の男は、瞬時に身構える。

開いた扉の向こう、廊下の逆光を受けて立っていたのはドラコ・マルフォイだった。

ドラコは半ば予想していた光景に、あまり驚きはしなかった。

ただ純粋に、ネビルの上に当然の如く圧し掛かる上級生たちに、激しい殺意を覚えた。

「‥‥なんだ、マルフォイか‥お前も昨日の話を聞いてたのか?」

突然の乱入者が、後輩だとわかって、眼鏡の男は表情を和らげた。

対照的に、ドラコの表情は険しかった。

無言で手に持った杖を先輩二人に突きつける。

「おい‥」

「何のつもりだ?」

怪訝な表情で、二人の上級生がドラコを見た。

 

ドラコは一瞬で二人に失神術をかけた。

自分でも驚く程の早業だった。

何も考える間も無く、上級生二人の身体は床に沈む。

残ったのは、怯えた表情で震えるネビルと、無表情で杖を構えたままのドラコだ。

「‥‥‥‥ネビル‥」

静かに、ドラコが口を開いた。

ネビルの身体が、ビクリと大きく震える。

次に浴びせられるのは、罵声だろうか?それとも、普段の傲慢な意地の悪い台詞だろうか。

怯えた表情で、ネビルはドラコを見詰めていた。

ドラコは無言でネビルに歩み寄り、転がっている上級生を乱暴に足蹴にしながら、ネビルの腕を掴んで歩き出した。

ネビルは抵抗できなかった。

何も言わないドラコが、とても恐ろしかった。

 

ネビルが連れて行かれたのは、グリフィンドールとは反対方向、スリザリン寮の近くだと思われる、薄暗い地下の廊下。

ドラコはおもむろに空いている方の手で、廊下の脇に立っていた騎士の銅像の右手の方向を変えた。

すると、銅像が右にスライドし、銅像が立っていた位置の壁に扉が現れた。

ドラコはその扉の中へと、ネビルを連れ込む。

ネビルは抵抗しなかった。

掴まれた腕が、痛かったが我慢した。

ドラコが何に怒っているのか、何処へ向かっているのか、わからなかったけれど、とても悲しそうな後姿をしている。

今、ここで抵抗をしたら、きっともう二人で会う時間は無くなるだろう‥と、ネビルにはわかった。

だから、抵抗しなかった。

扉の中は、幅の狭い廊下になっていて、等間隔に灯りが燈っていて明るい。

少し歩くと、通路の先に扉があった。

ドラコは開錠呪文で扉を開け、更に奥へとネビルを連れて行った。

扉の先にあったのは、豪華な装飾の施された広いベッドルーム。

ドラコは、その部屋の壁際に置かれた天蓋付きの、大きなベッドにネビルを座らせ、自分は床に膝を着いた。

ネビルは、成されるまま、困惑と怯えの混じった目でドラコを見詰める。

目の前のドラコの顔は、とても辛そうに歪んでいた。

 

「‥‥‥‥‥何で、‥‥言わなかった?‥‥僕はそんなに頼りないのか?‥」

絞り出す様に、震える声でドラコはネビルにそう問う。

ネビルは、静かに首を横に振った。

「‥違う‥‥‥僕は‥‥‥ドラコに、そんな風に‥言ってもらえる‥人間じゃないから‥‥汚い身体なんだ‥‥僕‥」

ネビルは静かに自嘲して、ドラコの腕を振り払う。

「‥ネビル‥」

ドラコは振り払われた腕を、再度ネビルの肩に置き、真っ直ぐな目でネビルを見た。

「そんな事は無い‥汚くなんか‥‥僕は今でも君が好きだ‥」

ネビルは、胸が押し潰されそうに痛かった。

真っ直ぐなドラコの視線も、突き刺さる様に痛かった。

身体は震え、涙が勝手に零れた。

「‥嫌か?‥‥僕が怖いか?」

ネビルは咄嗟に、首を何度も横に振った。

自分でも、どうしてそんな反応を起こしたのかわからない。

ただ、否定しようと身体が動いた。

ネビルは自分で自分の身体を抱き締める様にして、ドラコから視線を外した。

「‥‥ネビル‥」

ドラコは静かにネビルの名を呼び、震える身体を抱き締めた。

ネビルの身体が、ビクリと大きく強張り、次いでネビルの口から小さな吐息が漏れる。

「‥‥やっ‥」

その声は、拒絶と言うよりは、快楽に彩られていた。

ドラコは、微かに身体を離し、ネビルの顔色を伺う。

火照った頬をして、涙を流しながら必死で震える身体を抑え様と、腕に力を込めている。

ドラコは、再度優しくネビルの身体を抱き締めながら、耳元で囁いた。

「何をされた?魔法か?」

ネビルは一生懸命に、何度も頷く。

ドラコに触れられた事で、魔法の効果が誘発され身体が快楽を求めだしたのを、ネビルは理性で必死に抑えていた。

自分の身体が、自分の物で無くなる様な感覚に、恐怖を感じる一方で、その先の快楽を欲する。

ネビルには、そんな自分の身体がとても汚らわしい物に思えた。

「僕が‥‥忘れさせてやる‥‥だから、僕に今だけ君を任せて欲しい‥」

ドラコの甘い囁きは、ネビルの理性を崩壊させるのに十分な効力を持っていた。

 

ドラコは優しくネビルの身体をベッドに横たえた。

ネビルは目を閉じて、震える身体を必死で押さえ込んでいた。

「ネビル、僕だ‥怖くない‥‥見てくれ‥僕を‥」

ドラコは静かにそう言って、優しく何度もネビルの頬を指先で撫でた。

そんな軽い刺激でも、ネビルの身体がびくびくと震え、瞳から涙が零れ落ちる。

ネビルが涙で霞む目を開くと、鼻が着きそうなくらいの至近でドラコが自分を見据えていた。

そして、ドラコの首にスリザリンのネクタイが架かっていない。

先刻、自分が拒絶反応を示した原因を、ドラコは知っていたというのか‥。

そんなにも、自分を想ってくれるドラコの優しさに、ネビルの鼓動が魔法のせいではなく跳ねた。

「‥‥ドラコ‥優し‥く‥して‥‥痛・・・い‥から‥‥」

ネビルは微笑んだが、目尻からは新たな涙が零れて落ちた。

それでも必死で、ネビルはドラコの頬に手を添えた。

精一杯の、信頼の証として。

ドラコはその手に自分の手を重ねて握り、その指先に唇を寄せた。

「‥‥愛している‥」

静かに囁いて、ドラコはネビルの身体へ優しい愛撫を開始した。

 

ドラコが首筋を舌で舐め上げると、ネビルの身体がその度に跳ね上がる。

自分の身体の過剰な反応が恥ずかしくて、ネビルは指を噛み締めていた。

それに気付いたドラコは、そっとその指を掌ごと退かした。

自分のそれより幾分小さい手には、指だけでなくいろいろな個所に歯型が付いて、所々血が滲んでいる。

「痛くするなと言ったのは‥ネビルだろう?」

呆れたように、悲しそうに、ドラコは血の出た箇所を舐めながらネビルを嗜める。

「‥だ‥って‥‥声‥出ちゃう‥‥」

涙声で、ネビルがドラコに訴える仕草が、とても艶っぽい。

「出せば良い‥いっぱい聞かせてくれ‥‥ネビルの声‥」

我慢できずに、ドラコはネビルの唇に自分の唇を重ねた。

最初は触れるだけ。

二度目はゆっくりと舌を差し入れた。

ネビルは抵抗しなかった。

ドラコに捕らえられたままの手を、絡み合うように繋いで握り締める。

ドラコもそれに優しく握り返して答える。

深い口付けは、優しくネビルの口内を余す所無く撫上げ、舌を捉えて絡みつく。

息苦しくもあるそれは、今はネビルの快楽を引き出す行為でしかなかった。

ネビルは目を閉じ、ドラコの舌に翻弄されるまま、喉を鳴らす。

何度も角度を変え、深く深く舌を何度も絡ませ、飲みきれない唾液がネビルの口の端からシーツに伝った。

長いキスを終了すると、二人の間を唾液の糸が伝う。

その淫猥な情景に、思わずドラコは喉を鳴らした。

 

ネビルの制服のセーターを脱がせ、ネクタイを外し、シャツのボタンに手を掛けた所でドラコの手が止まる。

半分露わになったネビルの薄い胸に、生々しい暴行の痕が残っていた。

ドラコは小さく舌打ちをして、ベッドを下りた。

「‥‥?ドラコ?」

潤んだ目で、ネビルがドラコの動きを追った。

発した声は、甘えた響きが混ざっている。

「‥大丈夫だ‥直ぐ戻る‥」

ドラコは一度優しくネビルに口付けて、ベッドとは反対側の壁際に置いてあるチェストの引き出しから薬を持って来た。

ネビルの身体の傷痕を、一つ残らず消してやりたかった。

半分は、ネビルの為。

後半分は、自分のエゴ。

自分以外の人間が、ネビルに触れた証など、一つ残らず消し去ってしまいたい。

再びベッドに戻ってきたドラコに、ネビルは微笑みかけた。

魔法の効果が相当強力に作用しているらしい。

普段なら、決して見せない艶やかな表情をドラコに晒す。

自分以外の人間がネビルを襲ったという、確かな痕跡。

それに欲情してしまう自分にドラコは苦笑した。

 

「ひゃっ‥ぁ‥冷たい‥よ‥‥やっあ‥」

ドラコが持ってきた薬は、白い乳液タイプの魔法薬。

塗ればたちどころに、傷痕は消える。

しかし、白い乳液をネビルの肌に塗りつけ、ネビルの喘ぎに似た声を聞いている内に、ドラコは何だか悲しくなってきた。

塗っても塗っても、ネビルの身体から傷痕が無くならない。

それ程辛い暴行をネビルが受けたという事実。

そして、男の精液にも似た白い乳液にまみれていくネビルの身体。

それは、暴行を受けたネビルの姿を彷彿とさせる。

理由をつけて正当化した同じ行為を、ネビルにしようとしている自分。

それでも、傷痕を直してやりたくて、ドラコはネビルの身体に薬を塗り続けた。

不意に、ドラコの手にネビルの手が重ねられた。

「も‥いっ‥‥から‥‥お願‥い‥‥もうっ‥‥」

言われて、ドラコはネビルの下半身が限界まで反応している事に気付いた。

薬を塗るという行為は、ネビルにとって愛撫であり、達せない責め苦になっていたのだ。

ネビルの身体の傷は、ある箇所を除いて殆どの傷痕を消し終わっている。

「そうだな‥すまない‥‥」

ドラコはそう言って、ネビルの唇に口付ける。

舌で唇を割り開けば、おずおずとネビルの舌が絡んできた。

そんなネビルが愛しくなって、ドラコは奪うように唇を深く重ねる。

ついでに、ネビルの下半身に手を伸ばし、ゆっくりと扱いた。

ドラコの掌に包まれた瞬間、ネビルの身体がビクリと大きく跳ねた。

「んんっふ‥んふぅ‥」

鼻に掛かった吐息を洩らしながら、ネビルの腰が揺らいだ。

縋るように伸ばされた腕が、ドラコの背中を抱き締める。

「我慢するな」

唇を離して耳元で、ドラコが囁いた。

「あんっあっやぁ‥ドラコっ‥もっ‥あああっ」

切なく鳴いて、ネビルはドラコの掌に白濁の液を吐き出した。

 

ネビルは射精後の倦怠感にぐったりとして、肩で大きく呼吸を整えた。

閉じた目尻に浮かんだネビルの涙を、ドラコが舌で掬うと、くすぐったそうに身を捩る。

普通の恋人同士なら、この上なく幸せな時間。

今の二人には、きっと今後思い出したくも無くなるだろう時間。

ネビルは暴行された事を思い出し、ドラコはそれに付け込んでネビルを犯した事を思い出す。

快楽だけの、楽しくないだろう記憶。

それでも、ドラコは行為を止めようとは思わなかった。

ドラコは、ネビルの足を大きく開かせて唯一まだ薬を塗っていない場所、ネビルが一番傷付いているであろう箇所を晒した。

「やだぁ‥恥ずかしいっ‥」

ネビルが足を閉じようとするのを、力ずくで押し留める。

「駄目だ‥此処だけは‥治さないわけにいかない‥」

静かにそう言って、薬をたっぷり含んだドラコの指がネビルの蕾へとあてがわれる。

指先が僅かに触れると、ネビルの腰が大きく跳ねる。

「やっ‥駄目‥‥いやっ‥」

痛みを思い出したのか、ネビルの肩が震え頻りに頭を振る。

「大丈夫だ‥傷を治すだけだから‥ネビル‥」

ドラコはあやす様に、ネビルの頬に何度も口付ける。

ネビルの両腕が、痛いくらいにドラコの肩口にしがみ付いてきた。

ドラコはゆっくりと、撫でるように蕾の入り口で指を動かす。

「んっふぁっ‥ドラコ‥‥やっ‥‥‥あぁっ‥」

傷が癒えてくると、ネビルの口からは快楽の色が含まれた声が漏れだした。

それに合わせて入り口の皮膚がひくひくと、何かを求めるように蠢き始める。

「‥ネビル‥‥力を抜いていろ‥‥」

ドラコの言葉に、次の行為を悟ったネビルは、一瞬の間を置いて小さく頷いた。

それを確認して、ドラコは指をゆっくりとネビルの中に差し込んだ。

ネビルの内部の壁を、ゆっくりと指で撫で擦る。

熱く狭い内壁が、ドラコの指を容赦なく締め付けた。

「‥‥ネビル‥」

あまりの締め付けに、諭すようにドラコが囁いた。

「んっ‥だって‥‥やっもっ‥‥駄目っ‥‥だめぇっ‥」

泣きじゃくったネビルに、縋り付かれて、ドラコは行為を中止せざるを得なかった。

 

「‥ネビル‥‥治してやりたいんだ‥‥‥駄目なのか?」

縋り付くネビルを抱きかかえ、優しくその背を撫でながらドラコが言うと、ネビルは嫌々をする様に首を振った。

どうやら、行為自体が嫌なわけではないらしい。

ドラコは小さく溜息を吐いた。

「じゃあ‥何が駄目なんだ?」

ドラコが問うと、ネビルは一層泣き出した。

ドラコに縋り付き、甘えた子供の様な仕草で、泣き続ける。

不謹慎にも、ドラコの欲情が刺激されて‥状況はあまり良ろしくない。

暫くその生殺しの様な状況にドラコが耐えていると、ネビルの泣き声がだんだん落ち着いてきた。

「落ち着いたか?‥‥ネビル?」

呼吸困難みたいに、激しく呼吸を繰り返すネビルにドラコが声を掛けると、ネビルは何度も頷いた。

ドラコはご褒美の様に、ネビルの額にキスを落とした。

しかし、ドラコの顔を見て再び大粒の涙が頬を伝いだす。

「‥僕が‥‥嫌なのか?」

もしやと思ってドラコが問うと、ネビルはまた嫌々をする。

「ち‥‥っがうのっ‥僕‥‥のっ‥からだっ‥やらしっいの‥‥だからっ‥だっめ‥‥‥なのっ‥」

泣きじゃっくりの合間に、たどたどしくネビルは言葉を紡いだ。

「ネビル‥」

ドラコは正直驚いた。

ネビルに掛けられた魔法が、これ程強力だとは思って居なかった。

下手をしたら、治療している間に効果が切れてしまうのではないかとすら思っていた。

「‥どうしたい?」

ドラコは、ネビルが嫌がるのをわかっていて、そう聞いた。

魔法を口実に、ネビルを抱くのは簡単だったが、それでは強姦した奴らと同じだ。

出来れば、同意の上で行いたい。

「やっだ‥‥言えっな‥い‥‥よぅ‥‥いじわる‥しないで‥‥」

涙でくしゃくしゃになった顔で、ネビルはドラコを見上げた。

 

「意地悪しないのなら、お友達になってもいいよ」

 

「いじわる」という単語に、ドラコの脳裏に、ネビルとの約束が蘇る。

魔法で我を無くしている状態でも、あの約束は有効だろうか。

「本当にいいのか?」

確かめる様に問うと、ネビルは真っ赤になりながらも、ドラコの目を見て頷いた。

「ドラコ‥なら‥‥怖くっない‥からっ‥‥お願い‥‥もう‥シて‥」

潤んだ瞳と、頬を赤く染めたネビルにそう言われて、ドラコの理性は遂に限界に達した。

それでも、出来るだけ優しくネビルの身体を扱う事を忘れなかった。

優しくネビルの身体をシーツに横たえ、指に薬を塗ってネビルの蕾に塗り込め、自身の張り詰めたモノにもたっぷりと塗った。

そして、先端をあてがう。

ネビルのヒクついた入り口が、貪欲にドラコを飲み込もうと蠢いている。

 

「ネビル‥」

耳元で、甘く囁きながらドラコは先端をネビルの中へと突きたてた。

「ああっあ‥んっ‥ドラコ‥‥あぁあっ」

喘ぎと共に、ネビルの背筋が反り返る。

彷徨う掌をドラコの掌が捕らえ、二人は手を繋いだ。

浅く出入りを繰り返すと、好い所を突いたのか、ネビルの艶めいた嬌声が上がる。

「ココ‥良いのか?」

ドラコの問いに、真っ赤な顔で泣きながらネビルが嫌々をする。

それでも、ドラコが集中的にソコを突き上げると、ネビルは快楽の声を響かせた。

「やあんっあっあっ‥やっ‥もっソコばっかっりっ‥しな‥っで‥‥」

ネビルが本気で泣き出す前に、ドラコは更に奥へと腰を進めた。

熱くて柔らかいネビルの内壁が、ドラコに絡みつく。

ネビルの反応を見ながら、ゆっくりとネビルの好い所を探っては、ソコを集中的に突き上げる。

その度に、ネビルはドラコの名前を呼びながら快楽に酔った声を上げた。

 

「あっ‥ドラ‥コ‥‥もっ‥出ちゃう‥ああっ‥もうっ‥駄目ぇっ‥あんっあぁぅっ」

ドラコがネビルの中に全てを収める前に、ネビルは二度目の絶頂を迎えた。

同時に、きつい締め付けを感じて、ドラコの限界も近かった。

ネビルが射精後の軽い痙攣を起こす頃、誘発されてドラコはネビルの中で果てた。

「あっ‥熱い‥んあっ‥はぁんっ‥」

ドラコの背に縋り、ネビルは中に感じた熱い迸りに耐えた。

暫くは、お互いそのままで抱き合う。

「‥悪い‥いきなり中に出して‥」

申し分けなさそうに、ドラコが謝るのを、ネビルが首を振って制した。

「‥‥いいっ‥よ‥ドラコのだもん‥‥平気‥」

真っ赤な顔をして、ネビルは恥ずかしそうにそう言って、笑った。

その表情にドラコは一気に煽られる。

一度開放した熱が、再び下半身に集中する。

ドラコを咥えたままのネビルにも、その状況は直ぐに伝わる。

 

「‥‥‥あっ‥‥んっ‥‥」

自分の中で、再び硬くなったドラコを感じて、ネビルは目を伏せ頭を反らせた。

目の前で露わになった首筋に、吸い寄せられる様にドラコは唇を寄せる。

「ああっ‥やんっあっあん‥ひっんん‥あぁっ‥」

ドラコは夢中でネビルの肌に口付けを繰り返す。

首筋や、胸の突起に舌を這わせ、甘噛みを繰り返す。

繋いでいない方の手で、ネビルの雄を掴んで擦った。

ネビルは涙を流して身悶え、ドラコに縋り、快楽に鳴いた。

ドラコは腰の動きを再開し、ネビルの最奥まで貫くと、奥を何度も穿ってネビルを快楽に溺れさせた。

その後二人は、なしくずしに何回も交わった。

 

ようやくお互いの身体を開放し、ふらふらになったネビルをドラコが抱きかかえ、部屋に備え付けの豪華なバスルームで一緒にシャワーを浴びた。

綺麗に洗ったネビルの身体には、暴行の傷痕は残っていなかったが、ドラコと抱き合った痕跡が至る所に見られて、痛々しかった。

「‥‥気にしないで‥」

身体が満足したからなのか、シャワーでスッキリしたせいなのか、魔法の効果がすっかり抜けたネビルが、自分を苦い顔で見詰めるドラコに言った。

「‥‥‥ネビル‥」

ネビルの言葉に、ドラコの表情は益々険しくなった。

後悔はしていないが、満足もしていない。

所詮、自分はネビルを強姦した奴らと変わらない。

ネビルの身体に残った痕が、如実にそれをドラコへと伝えた。

消したはずの暴行の痕が、再びネビルの身体に浮き上がっている。

「‥ドラコ‥‥良いから‥‥気にしないで?」

少し大き目のバスローブを身に纏ったネビルが、お揃いの格好のドラコを見上げて首を横に振る。

「‥‥‥」

ドラコは何も言えないで居た。

ネビルは小さく溜息を吐いて、ベッドに座った。

先刻まで、快楽に溺れていたベッドに座り、ぼんやりと宙を見詰める。

 

「‥‥ネビル‥僕と‥付き合わないか?‥僕が君を‥責任を持って守るから‥僕のものにならないか?‥」

暫く黙っていたドラコが、決心したように口を開いた。

ネビルからの返事は無い。

拒絶も、肯定も、驚きの声すらも聞こえない‥完全な無視?

伏せていた視線を上げると、ネビルはベッドの上に横になっている。

‥寝てしまったのだろうか?

ドラコが近付いて、ネビルの顔を覗き込むと、目を開いていたネビルと目が合った。

「‥‥‥ネビル‥‥?」

恐ろしく無表情なその顔が、怒っているように見えて、ドラコの声が震えた。

今更ながらに、自分の身勝手な言動に焦っていた。

魔法にかかっているのを良いことに、犯した挙句付き合ってくれだなんて、都合が良すぎる。

真っ直ぐに見据えるネビルの視線を、ドラコはただ受け止めた。

「‥‥‥‥いいよ‥‥」

ネビルが唐突にそう呟いた。

言われたドラコは、目を見開いて言葉も出なかった。

ネビルは微かに笑って、目を閉じた。

今度は本当に眠ってしまって、目を開けなかった。

残されたドラコは、取り敢えずネビル諸共布団に入ったが眠れなかった。

先刻のネビルの言葉が、信じられない。

ネビルと同じ布団の中に居る現状が、信じられない。

そんな事をぐるぐる考えて、朝になってしまった。

 

「おはよ‥‥ドラコ」

目を開けて、目の前に居るドラコに驚いて、小さな悲鳴と共に一度布団の中に潜ったネビルが、昨日の事を思い出した様に真っ赤な顔を半分覗かせて言った。

「おはようネビル」

ドラコは、苦笑しながらネビルの額にキスをした。

泣くか、逃げかすると思ったが、ネビルは真っ赤な顔のまま目を瞑ってそれを受け止める。

「僕にはしてくれないのか?」

そう言うと、今度こそネビルは泣きそうな顔をして、それでもおずおずと不慣れな動作でドラコの頬にキスを返した。

それでようやく、ドラコは昨日のネビルの言葉が幻聴ではなかったと確信を持てた。

嬉しい気持ちのまま、ネビルを抱き締める。

ネビルは驚いて悲鳴は上げたが、逃げなかった。

 

Fin

 

あはは。やりました‥やっちまいました。

尻に敷かれっぱなしの坊ちゃんですが愛ならたっぷり‥(逝って良し)

展開が強引ぐマイウェイで申し訳ないです(苦笑)

無性にこの二人は書いてて楽しいです。我を忘れます(え?待て)

2004・03・16 みづきちよ

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